複雑・ファジー小説
- Re: ■菌糸の教室■ ( No.37 )
- 日時: 2012/01/02 00:38
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
結局、四時間目の授業はサボってしまった。
きっと今は昼休みだろう。なんでだかよく分からないが、全く教室に帰る気になれなかった。今までの俺だったら、サボりなんてあり得なかったのに。
こうして、ふて腐れたように部室に籠っているんだから救いようがない。
部室の小さな窓から差し込む光をぼーっと眺めていると、背後のドアがこんこん、と小さくノックされる音がした。
「…はい?」こんな時間に部室に何の用なのだろう。怪訝に思いながらも返事をして、ドアを開けるとそこに立っていたのは柚木だった。
「ゆ、柚木?」
「やっと楓くん見ーっけた。ほんと探したんだから。どうしたのよ、こんなとこで。」柚木が屈託のない笑顔を見せた。
「……別に。何となく」
「へぇ、何となくね。」
それから、柚木は何も喋らなくなった。こちらの方も特に用事も無いので黙っていた。居心地の悪い静けさに、時計の秒針が刻む音が嘘みたいによく響いていた。
「なぁ、」思い出した、と言わんばかりに声を上げる。「そういやさっき、先輩来たぞ。確か宮下先輩とか言う人。お前放送部サボってんだってな。部活に来いって伝えろって言われたぞ。」
「……放送部?」柚木が大きな瞳を見開いて聞き返した。
「なんだよ、違うのか。」じゃああの宮下という人は何だったのだろう。
「あ、いや。ううん。」柚木が目を逸らした。「久しぶりすぎて忘れちゃってただけ。ありがとう。それより、」柚木がブレザーのポケットから何か出した。小さな消しゴムサイズの、銀紙に包まれたお菓子のようだった。「これあげる。チョコレート。おいしいから。」
「はぁ?」何でチョコなんだと思いながらも、柚木が無理矢理に手のひらに握らせてきた。
「だって楓君最近元気ないっぽいから。これ食べて元気になって。」半ば冗談のような事を、柚木は本気で言っているようだった。
「あー…、ありがとう。」
「よかった。」柚木が嬉しそうに笑う。「じゃあね、それだけ。」
そう言い放つと、柚木はまた部室のドアを小さく開けて、外へ出て行ってしまった。変な奴、と思わず呟いた。
手のひらに残された、チョコレート。
何となく、することも無いので銀紙をチョコレートから剥ぎ取って、口に含んでみた。甘かった。チョコレートなんて食べたのは久しぶりだった気がする。
そのまましばらくぼーっとしていた。本当にぼーっとしていた。
部室のドア越しに、誰かが楽しそうに笑い合う声が聞こえる。……ああ、今は昼休み何だっけ。さすがに午後の授業には出なきゃな、とぼんやりと思った。
やがて、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
キーンコーンカーンコーン、と湿った空気に響くありきたりな音が、やけに煩く聞こえた。