複雑・ファジー小説
- Re: ■菌糸の教室■ ( No.38 )
- 日時: 2012/01/04 23:34
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: kaY8Y1HD)
それから、午後の授業をやり過ごし、いつも通り部活に向かった。…が、あいにくの大雨で部活は中練となった。
校舎内はグラウンドを追われた多くの連中で湧き上がり、梅雨の湿気も手伝って耐え難い熱気を帯びている。顎から首にかけて伝う汗が、ぬめりと気持ちが悪かった。
けれど中練と言っても特にこれといった練習をするわけでも無かった。一通り筋トレをこなした後は解散となった。時間が早すぎるし、することも無いので久しぶりに学校の図書館に寄って、宿題でものんびりとしていこうと思った。
図書館には小部屋が多い。ずらっと廊下に沿って部屋が八つ、並んでいる。
一応は自習室と呼ばれているその部屋は、あまり生徒から人気が無かった。なぜなら数年前に、あくまでも噂に過ぎないが———— 一番奥の部屋で自殺者が出たと言われているからだ。今でもその奥の部屋は封鎖されていて、しかもその隣の部屋も入れないようになっていた。だから、不気味な噂を我慢すれば、一人で静かに勉強したいときは好都合だった。
自習室のほとんどは何もない無機質なガランとした部屋で、大きな机と、それを取り囲むようにして古い椅子が何脚か並んでいるだけだった。……まぁ、自習室なのだからそれだけで十分なのだが。
自習室の扉を開こうと手を伸ばすと、それと同時に扉が内側から勢いよく開いた。
思わず飛び退くと、中からでてきたのは柚木だった。
「うわっ、……ってまた柚木か。今日はよく会うな。」
「ああ、ごめん。」柚木がさっと目を逸らした。「ドア危なかったでしょ、ごめんね。」
早口にそう言うと、柚木は何を急いでいるのか小走りに図書館から出て行った。少し、柚木の口調には毒があった。何か怒らせてしまったのだろうか。
まぁいっか、と呟いて部屋に入ると、中には女子生徒が一人居た。誰も居ないものかと思っていたので少し驚いた。
その女子生徒は俺が入ってきた音にも気が付かず、何かを食べていた。
いや、食べていた、という感じではない。ガツガツと、必死の形相で貪り喰っている。大きな音を立てて。脇目も振らず。
その様子は、かなり異様だった。
まるで人じゃない、何かの獰猛な獣のようだった。
唖然として何もできなくて、戸口のところで突っ立っていた。やがてもう食べていたものが無くなったのだろう、その女子高校生は食べることを止めて、そのまま机に突っ伏して眠り始めた。
「……え?」
あまりのことに言葉が出なかった。しかも、その生徒は同じクラスの女子だった。喋ったことは無いが、よく柚木と一緒にいる有沖さんという子だと思う。
眠っている有沖さんの周りには、お菓子の包み紙のようなものが散らばっていた。よく目を凝らせばチョコレートの銀紙のようだった。
—————— チョコレートの銀紙?
とっさにズボンのポケットをあさる。グシャ、と指先に何か触れた感触が伝わって、ソレを掴むと、昼休みに柚木から貰ったチョコレートの銀紙だった。銀色の紙の色に、うっすらと黄緑色のストライプが印刷されている。有沖さんの周りに散らばる銀紙も、同じ柄をしていた。
……じゃあ、きっと有沖さんも柚木からこのチョコを貰ったのだ。
それだけの事なのだが、何かが心に引っかかった。それにさっきの有沖さんの様子。尋常じゃ、なかった。
何だか勉強なんかしている気分では無くなったので、眠る有沖さんを残して、図書館を後にした。