複雑・ファジー小説

Re: ■菌糸の教室■ ( No.64 )
日時: 2014/03/09 01:30
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: KE0ZVzN7)


 File1:峰 由詩


 ぽつぽつと、灰色の雨が灰色の空から降っている。

 冷え切った体を起こすと、見慣れない場所に居た。
 死んだようなコンクリートの打ち付けと、見上げれば小さく切り取られた灰色の空の一角が見えた。それ以外は、何も見えない。

 周りを見回すと、知らない人たちが何人も、ゴミの塊りのようにうずくまっていた。動かない。しかもコンクリートの地面には、誰のものか赤黒い血の筋が滲んでいた。気持ちが悪くなって、立ち上がると右の脇腹と、左足の付け根がじん、と痛んだ。痛くて、小さな悲鳴が喉から出てしまう。

 それから、とりあえずここから早く離れたくって、僕はあてもなく歩き始めた。

 そこで初めて、自分がまだ制服を着ていることに気付いた。じゃあ、ここに連れてこられたのは、金曜日の夕方かな。今が何曜日かも分からないけれど。

 クスリで飛んだ記憶はどうしたって戻らない。それが僕がここ一か月で学んだことの全てだ。

 ふらふらとした足取りで、ちょっとずつ、ちょっとずつ歩いた。小さく不潔な路地から、だんだん大きい道へ。できるだけマトモな方を目指して。

 狭い路地裏やビルとビルの隙間では、ところどころ、ぷうんと、汚物の不快な臭いが立ち込めていた。何が楽しいのかゲラゲラ笑いながら、狂ったようにぎこちないステップを踏み続ける男がいる。フードを深く被ったまま動かない女がいる。学生服の僕がいる。


 雨は冷たかった。どうしようもない位に。


 それから、黒い学生服は灰色の風景の中に溶けるように消えてゆく。ふらふらと、難破した舟のように。



 行く先なんて、まるで無いのに。