複雑・ファジー小説

2ページ ( No.23 )
日時: 2011/09/18 13:46
名前: コーダ (ID: qwv/zAi4)

 快晴の夜空、そこに浮かぶ赤い月。
 心地の良い冷たい風が吹いて、すこし気持ちが良い夜。

「やはり、赤い月を見ながら血を飲むのが1番だな」

 バルコニーに置いてあるお洒落な赤いベンチに座って、ワイングラスを右手で揺らすドラキュラの女性。
 背中の赤いマントを風で翻(ひるがえ)しながら、優雅に血を飲む。

「……だが、こんなこと出来るのは後もう少しか」

 眉を動かして、どこか深刻そうに呟く女性。
 黒い尻尾も挙動不審に動いて、その深刻さは他人から見ても伝わる。

「倉庫にある血で今は補っているが、そろそろなくなりそうだ……」

 彼女が心配していたこと——————倉庫に貯蓄してある血がなくなることだった。
 ドラキュラの生命を保つ重要な物がなくなる。それは、死活問題である。

「最近の人間は、ドラキュラという存在に驚かなくなった……酷い者は、ドラキュラという存在自体を知らずに生きている……」

 左で頭を押さえて、小さく言葉を呟く。

「昔は、ドラキュラに怯えて暮らす人間を見て愉快に思っていたが……今度は、逆の立場になるか……」

 ドラキュラという古い概念を、ゴミのように捨てる人間。
 今まさに、そんな状況だった。

「人間の血は希少価値になり、最近は獣の血で代用しているが……だめだ。あんな血では生命がつなげられん」

 だんだん苛立ってくる女性。
 その場に居たら、腰にある刀で斬りかかってくるのではないかと思わせるくらいだった。

「人間を襲えばそれで済むのに、その人間は私たちを倒す道具を大量に持っている……」

 ドラキュラの弱点——————太陽が昇る時間、イワシの頭、ニンニク、流水、十字架と非常に多い。
 彼女がそう言うのも、少々納得がいく。

「まぁ、一応私は——」

 そう言葉を言おうとした瞬間、バルコニーの窓から誰かが入ってくる。

「あら、お姉さま。今日はご機嫌ななめですわね」

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