複雑・ファジー小説

4ページ ( No.55 )
日時: 2011/09/22 21:07
名前: コーダ (ID: NH1RGN1H)

「……風で揺れ動く花。優雅に美しいが、その中には力強さも感じる」

 1人の女性が、小さく言葉を呟きハープを鳴らす。

 茶色の髪の毛は腰にかかるくらい長く、前髪はとても目にかかっており、瞳は朱色に輝いている。
 緑色のローブを着て、とても動きやすい格好をしていた。その姿は正に、吟遊詩人(ぎんゆうしじん)を連想させる。
 手にはハープをもって、美しい音色を辺りに響かせる。

 そして、極めつけに尖った耳を印象的な女性——————エルフだ。

「私たちは、そんな花を見習うべき……厳しい天候に負けず、勇ましく咲く花のように……」

 瞳を虚ろにさせながら、ぶつぶつと言葉を呟く。
 傍から見れば、かなり怪しい人に見える。

「それにしても、ここは花がたくさん咲いている……」

 ハープを鳴らし、辺りを見回すエルフの女性。

 春夏秋冬を象徴する花、珍しい花、伝説の花——————全て生えている。

「………………」

 その花の周りを飛びまわるフェアリーとピクシーも目に入れる。
 すると、エルフの女性は微笑み、

「確かに、これだけのフェアリーとピクシーが居れば花が大量に咲いているのも納得できる……」

 フェアリーとピクシー。
 唯一背中に羽を持ち、空を飛べる存在。
 自由気ままで、思ったことをすぐに行う性格。それは好き勝手に天候や気温を変える自然そのものに似ている。
 そう、フェアリーとピクシーはもっとも自然に近い妖精。

 地の精、水の精、風の精、花の精——————様々な妖精が居る。
 もちろん、その精によってさまざまな能力が宿っている。
 花の精が飛びまわる場所にはたくさんの花が咲き、水の精が飛びまわる場所では清らかな水が沸く。

 ただし、これは無意識に発動される能力——————
 自身で花を咲かせようとしても、花は咲かない。あくまで、自然の自分を表すことで能力が発動する。

 ——————ごく少数だが、その能力を自分が思う時に使える者も居るが。

「フェアリーとピクシー……1番生息していて、1番謎な種族……」

 ハープを鳴らし、エルフの女性は足を進める。
 すると、小さな喫茶店が目に入る。

「あそこで、一休みでもするか……」

 疲れを取るため、小さな喫茶店へ向かう女性。

 ——————その表情は、どこか嬉しそうだった。

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