複雑・ファジー小説
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- 日時: 2011/10/02 00:27
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: jvWBucyN)
喫茶店の扉を開けた瞬間、柔らかいベルの音が鳴る。
それを合図に、カウンターから1人の男性が現れる。
「おやおや、これは珍しい……旅をするエルフさんですか?」
少々年老いた男性。だが、身体はとてもたくましいトロールである。
旅をするエルフは持っているハープを鳴らす。
「ここのオススメはなんでしょうか?」
まるで吟遊詩人(ぎんゆうしじん)を連想させる綺麗な喋り方。女性だったから、なおさら綺麗である。
年老いた老人は、笑顔で質問に答える。
「頼まれた物は、全てオススメにするのが私の仕事です。どうぞ、お好きな物を……」
この言葉に、エルフの女性は驚いた表情を浮かべる。
——————オススメは、自分が好きな物。
非常に、意味深な一言だ。
「では、アッサムティーとタルトを」
「かしこまりました。どうぞ、お好きな席で待っていてください」
店員は店の奥へ入っていく。
エルフの女性は優雅にハープを鳴らしながら、辺りを見回す。
——————花畑が1番見える席に、1人の女性の妖精が座っていたのを見つける。
長い耳を動かして、エルフの女性はゆっくり妖精の元へ近づく。
「あなたは、花が好きなのですか……?」
女性妖精へそう言葉を飛ばすが、返事はなかった。
エルフの女性はハープを鳴らし、対面するように座る。
「………………」
どうやら、妖精の女性は花を見るのに夢中になっているようである。
とても整った顔立ち、綺麗な髪の毛。
花を見る目はとても優しく、全てを温かく包みこむような感じ。
エルフの女性は、そんな彼女を見て一言呟く。
「その温かな瞳は全てを優しく受け入れる……だが、その瞳を利用する輩も居るから気をつけた方が良い」
明らかに、警告をしているような感じだった。
すると、女性の妖精はゆっくりエルフの女性の顔を見つめ、
「そういうお方でも、私は受け入れます。どんな人でも、妖精には変わりありませんから」
汚れがない眩しい笑顔。エルフの女性は思わず花畑へ目をそらす。
——————なぜ、彼女はそういう風に考えられるのか。
妖精の中にも、常に悪いことをするゴブリンやコボルトも居る。
エルフの女性は、頭に疑問符がどんどん浮かぶ。
「所で、あなたはハープを持っているエルフですか……吟遊詩人さんでしょうか?」
「そう解釈してもかまわない。私は趣味でハープを鳴らし、この世を旅している」
「旅をしているエルフですか……私も、色々な世界へ行ってみたいです」
女性の妖精は憧れの目でエルフの女性を見つめる。
「行こうと思えば、行ける」
「その覚悟が私にないのです。ここのお花はとても綺麗で可愛くて……離れることができないのです」
エルフの女性は心の中で頷く。
彼女が遠いところへ行っても、すぐにフラワーシックになりそうだと思ったからだ。
「確かに、この町の花は綺麗で美しい……各地を旅しているが、初めて見た」
「まぁ、そうなのですか?」
エルフの女性はこくりと頷く。
「でも、お花より魅力的なものはあるのですよね?私は、それを見てみたいです」
「花より魅力的な物……か」
どこか遠い目で言葉を呟くエルフの女性。
まるで、魅力的なものなどなかったような瞳をしていた。
「あまり聞かない方がよさそうですね」
「………………」
優しく微笑む女性の妖精。
人の気持ちを察することもできる。そう心の中で呟くエルフの女性。
「そういえば、まだ私の名前を名乗っていないですね。私はシルフィ=ティタです」
「……リュート=ハーミンス」
ティタ、ハーミンスはしばらく会話をする。
それを温かい笑顔で見ていたドワーフの店員が、居たのは言うまでもない。