複雑・ファジー小説

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日時: 2011/10/06 21:22
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: ZEuRnT3o)

「えっと……だ、誰ですか?」

 突然、シスタに話しかけてきたのは少々胡散臭い表情を浮かべた男。

 黒いスーツに身をまとい、髪の毛は首元まで長い。
 前髪も目にかなりかかっており、よく見ないと瞳が見えないくらいだ。
 手には書類みたいな紙を大量に持っている。

「ここの常連、コストさんよ」

 アーテンは目を細くして、言葉を呟く。
 その表情は、どこか呆れたような雰囲気を漂わせる。

「ヒヒヒ……しがない事務員さぁ」
「事務員ねぇ……」

 スフェーンはモノクルを布で拭きながら、明後日の方角へ言葉を飛ばす。

「所で、いつになったら溜まったお金を支払ってくれるの!?」

 アーテンはメイド服の胸ポケットから1枚の紙を出して、それを叩きつけるように机の上に置く。
 近くに置いてあったティーカップが揺れて、中に入っている紅茶が若干こぼれる。

「何、心配するなぁ……今日は払う。小切手でな……ヒヒヒ」
「なんで、現金払いじゃないのよ!?」

 今度は怒鳴り声を出すアーテン。
 シスタは、そんな彼女から目をそらし黙って鮭とばを食べる。

「そんなに怒鳴ったら、小じわが増えるぜぇ……」
「その原因を作っているのは、どこの誰よ!?」
「おっと、それは言わない約束だぜ」
「っ……」

 アーテンは持っている銀のおぼんで、コストの頭を思いっきり叩く。
 店内に響く鈍い音と大量の紙が落ちる音。
 スフェーンは思わず、飲んでいたブラックコーヒーを吹き出す。
 それでもシスタは、鮭とばを食べることをやめなかった。

「メイドが客を叩いて良いのか……?」

 スフェーンは吹き出したコーヒーを布巾で拭きながら、アーテンへ言葉を飛ばす。

「良いのよ!コストさんが悪いんだから!」

 仁王立ちしながら、腕組をして言葉を言う。
 周りに居たお客さんはせっせと紅茶を飲み始め、会計へ向かう。

「えっ?ちょ、ちょっと!お客さ〜ん!」
「ヒヒ……ヒ……無理もねぇよ……あんなメイドの姿を見ればなぁ」

 コストは床に落とした大量の紙を拾いながら、胡散臭い微笑みをする。

「確かに客に暴力をふるうなんて、恐ろしくていられないな。っと、俺もそろそろここからずらかるか……」

 スフェーンは、懐からコーヒー代金を出してそれを机の上に置く。
 そして、マントを翻(ひるがえ)し喫茶店を後にする。

「……?」

 シスタは、そんな彼の後ろ姿を見ながら鮭とばを咥えていた。