複雑・ファジー小説

Re:  「 カイラク 」 ( No.108 )
日時: 2012/07/21 15:48
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: CMvpO4dN)

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「…………はは、ねーぇ? はははぁ、それ……本気ぃい?」

 さっきまでのお姉ちゃんの声と誰かの声が混ざってぐちゃぐちゃな音が、笑い声と共に耳の中に、奥の奥深くに入ってくる。
 その数秒後に起りはじめた目の前の光景に思わず、口を手で塞いだ。

 お姉ちゃんが腐る。腐る、腐る腐る落ちる削げる死ぬ、死ぬ!
 肉が、只でさえ汚い色の肉が緑になってカビが生えて、肉の中から蟻がわさわさわさわさ出てきて、色はどんどん汚くなって、どろっととける。
 腕が融けて顔が融けて足が融けて胴体が融けたあとの白い骨が、蟻に食われる。

 さっき食べたクリームパンを吐き出し終わって顔を上げると、蟻の大群はもう消え去って、頭蓋骨が一つ。骨に表情は無いはずなのに、笑っているように見える頭蓋骨。

「あっははははあはっはははああははははっはは!」

 ぎょっ。頭蓋骨がさっきの声で急に笑い出したので私はぎょっとして、この骨を消せる術をくるくる空回る頭で考えた。
 何か、溶かすもの……硫酸! 恐怖をとっさに、ビンに変換。召喚したジャム入れみたいなビンはカン、カランと床に落ちた。ビンを掴み蓋をあけて、ジャムの代わりに収納された液体を頭蓋骨にぶっかける。骨はじゅわっと解けて、骨の液体がその場に残った。
 ふぅ。
 一息ついたところに、またさっきの三重の声が響いた。

「硫酸って……ふふふはは、ひっどいなぁあ!」

 二回目のぎょっ。
 骨が解けた液体がみょーんと上に、スライムのような弾力感を持って伸びた。スライムがぱっと人の形に変わる。

「酷い酷い酷過ぎる、仮にも自分の親に向かってぇ? 何、何なのこれが家庭内暴力? 暴力はつぅうほぉおおう! しないと!」

 そう言ってげらげら笑う声も姿も、紛れもないチャラ男のものだった。
 前に会った時よりも更に、何もかもがレベルアップ、ダウンとも言えるように変わっていた。今私はものすごくこの場から逃げ出したい。

「キミさぁあ? 何? ボクを何? お姉ちゃんだと思ったの? 思ってたの? ふふははは、甘い甘いあっまいよ、砂糖入りのグラニュー糖にガムシロップをかけたくらい甘い!」

 お姉ちゃんが腐って、解けた。さっきのお姉ちゃんの姿の答えは、こいつだった訳である。今私はものすごく腹が立っている。
 自分の気持ちに正直に、手の中に召喚した包丁をチャラ男に向けて投げた。