複雑・ファジー小説

Re:  「 カイラク 」 ( No.127 )
日時: 2012/09/23 18:04
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: GUpLP2U1)

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「この子大事な死んじゃ困る妹なんだけど。何?殺そうと思ったの? ふざけんじゃないわぁこの最高に最低な下種野郎が」

 棒読みでべらべら喋りながらお姉ちゃんは私を起こしてくれる。
 こんな姉を生んでくれるとは母の不倫も良い物かもしれなかった、とも思えてくる不思議。母も知らぬ他人の不倫相手も好きにはなれないが。

「……っちぃえぇええ。お邪魔虫のクズがぁ。君の妹僕の娘殺させてくれないなら長女斬るよ?潰すよ?埋めるよどおぉうする?」
「いいよ、別に。私は貴女より絶対に強いし、貴女より絶対に意志は強い。瞬殺かも?」

 と、お姉ちゃんが笑ったら。マンションが消え、私達を見下ろしていたチャラ男が落ちた。空を見あげて空気に寝そべったら一瞬。彼女の体はかなりのスピードで、アスファルトの地面に叩き付けられた。それはもう、アスファルトにひびが入るくらいの。
 即死かな、と思うと、地面に転がっていた死体もどきがすぐに起き上がり、ちょっと首を回すとにやーと笑った。ここまで数十秒。

「痛いんだけどぉおう? 即死じゃなかったざーんねーん!」

 口を半開きで目も半開きで目まぐるしく過ぎ去る出来事をぐるぐる回る眼球で見つめる。速くて追いつけそうにない。目の前が霞んで頭がぼうっとしてきた。半目が三分の一目になりそう。
 すこしだけ、ねむいの。

「ああどうしたの何も出来ないの奥の手は無いの!?」

 目に接着剤を塗ったのだ。多分この瞼を閉じればシャットアウト。もう起きられない永遠の眠りにつくのかもしれない。知らないどうでもいい。眠い。

「来いよほらもっと早く早く速く速く!」

 反撃を速く速く私は私が死ぬ前に早く早く。私を早く起こして欲しい、早く私を出して欲しい、この空想世界のどん底から出して。
 視界の真ん中で霞むお姉ちゃんは極悪だった目つきをやめて、少しだけ微笑んだ。
 すこしの間をおいて小さな声が。




「ありがと」


 世界にひび。