複雑・ファジー小説

Re:  「 カイラク 」 ( No.130 )
日時: 2012/09/23 18:02
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: GUpLP2U1)

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 だから。何で。

 言葉を詰まらせてパンクした、母の顔が崩れる。目からこぼれる涙が下に落ちるにつれて形を作り、暖色の装飾が入ったビー玉になって床にぶつかって、割れる。ぱき、ぱり。衝撃で世界にまでぴき、ぱり。

「あぁ。こんなん私が只の馬鹿の気違いじゃないか」

 消えそうなか細い声、子供みたい。
 とてもじゃないけど起きてらんない、この睡眠欲を抑えつけて私も母にお姉ちゃんに何か言わないと、言わないと、言わなければもう会えないようなそんな気がする。
「さよなら」「ありがとう」「どういたしまして」「さよなら」
 私は何も言えてないよ、まだ何も。
 消えそうな視界世界の中で母が割れた。

「あ」

割れて粉々に。欠片も世界に残さないで。
 ああ。消えてしまった。

「さあ、そろそろ戻ろうか」

 お姉ちゃんが振り向いて、私の首に手を絡める。
 濁った虹色が透けて、肌に色が戻っていく。お姉ちゃん。ああ、ああ、あ。瞼の僅かな隙間から涙が。

「まだ生きて、またおやすみ」

 閉じた。
 世界が消える。壊れる。また零に、黒に、虚無ではない暖かい始まりに戻る。また、生まれる前に。お姉ちゃんもお母さんも世界も記憶も全部溶けて、割れて生まれる前に。
 そしてもう一度生まれるのだろう。

「お姉ちゃん、ありがとう」
 黒の世界に自分の意思が響く。言えた。
夢現世界からのシャットアウト、もう二度と戻れない。記憶もいずれ消えてしまう。酷い世界だ。
私は目覚めたら何をすればいいのだろうか。

そんな不安も意識も思想も、ぷつり。