複雑・ファジー小説
- Re: 【残すはエピローグのみ!】「 カイラク 」 【更新9/23】 ( No.135 )
- 日時: 2012/09/27 17:33
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: GUpLP2U1)
エピローグ
薬くさい部屋で目を覚ました。目を覚ましたけれど目は開けない。声が聞こえるから。
いつからか分からないけれど、私が聞いているのはついさっきから。
「なぁに、此処の子。飛び込み自殺未遂? 電車がぎりぎりで止まったから良かったものの……」
「ですよねー。本当に良かったですよね。でももうすぐ一週間ですよぉ?」
「まぁだ意識戻ってないの? 大変ねェあなたも」
「そうですよ! 親にも連絡つかないし、見つかったときはもう餓死寸前! そもそも親居るのかなーって感じですよー」
「新人さんにこんな仕事押し付けて……院長先生も酷い人ね」
「そう思いますよね! ……ああ、仕事に戻らないと」
「そうね。じゃあ、頑張って」
「はい!」
人のこと好き勝手いいやがって。溜息を吐き出しながら部屋に入ってくる気配を感じつつ、目は閉じたまま。
そうか。私は死のうとしたのか。あの踏切で、あの家から出たときに。それでずっと夢の中に居たのか。多分そうだ。私は。
何かをぶつぶつと呟きながら私の周りで動き回っていた看護婦らしき人物が出ていくのを待って、目を開けた。
薄明るい部屋。薄緑色のカーテンの向こう側の世界は何色だろうか。お姉ちゃんの色より綺麗なものだろうか。
ベッドから起き上がって、腕にくっついた点滴をはがす。
灰色と金色と紫色の浅い黄昏の色。汚い色。眼下の駐車場と真っ黒の街。湿気を孕んだ生温い風が頬にぶつかって目に入る髪を持ち上げる。
私は生きていくのか。この何もない冷たい世界で、家族の死を背負って。一人で? 誰も居ないのだ、私以外には誰も。
そうだ。そうだよ。姉も母も私の強さに期待してその口で声で心で「まだ生きて」って。
だって。私は一人だ。
今日はいい日。
明日もいい日。これからは永遠にずっといい日。
開け放された窓枠の上に、カーテンを掴んで立ち上がる。病室の片隅に見つけた熊のぬいぐるみに笑いかけるほどのこの幸せ。
カーテンを握る手の力を抜いた。全身の力も少し後方に残して。
ああ、この現実世界。大人も子供も絶望塗れ。下を向いてしか歩けない。だから。黒を全部消して、色をつけてあげよう。私が鳥居に色を付けたみたいに。今度は単色、この赤で。
綺麗なドーム型の空を見下ろして、薄笑いと心の雫を宙に浮かべる。
落ちよう。
また、あの夢中へ。