複雑・ファジー小説
- Re: 「 カイラク 」 ( No.28 )
- 日時: 2011/10/11 21:43
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)
- 参照: 短いかな。短いな。短いけどいいかな。短すぎたら足します。
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少し広い商店街に出たところで、自分に行く当てが無いことを思い出した。暇を潰すのに使っている文庫本は机の上、金も無いし携帯とかゲームは持っていない。どっかその辺の公園で過ごす事も暇がありすぎてつまらない。
さて、どうしようか。このまま家に帰るのも何だかシャクだから帰りたく無いし、だからと言って腹が減ったから帰らないわけにも行かない。しかも食べる物は冷蔵庫の中のとても食べられそうに無い物とか虫とかその辺だから、あまり帰りたくないのだが。慣れるとそれなりに美味い気もしてくるが、やっぱり嫌な物は嫌だ。まあ虫ならそこら中にうじゃうじゃ沢山沸いているから、満腹にするには相当な量が必要だけど、足りそうだ。
考えながら、歩き続ける。取り合えず虫が沢山居そうな所を探しながら、歩き続ける。
商店街を抜けて、人通りの少ない狭い道路に出た。まっすぐに伸びた黒いアスファルトと、両脇にずらりと並ぶ同じような形の家。そのまま上に視線をずらして、空を見る。ブロック塀の間から太陽が見えた。
いつの間にか日は西へ傾き、空は私の嫌いな赤い色に染まった。空の血みたいで嫌いだ。空が自殺して、落ちるみたいで嫌いだ。自殺は、嫌いだ。
私は足元の染みや鳥の糞がこびり付いた黒いアスファルトを見ながら、また歩き出した。
この道が何処へ続くのかは知らない。こんな所歩いたのは初めてだし、第一私は外にはあまり出ない。道なんて覚える気もない。
五分くらいだろうか。
私は腕時計なんて持っていないしこの辺りに時計は無いので、完全に私の時間感覚で言っているが、かなり正確な筈だ。
何処までもまっすぐな道を下を向いて歩き続けて五分、視線を上げるとまだまっすぐな道が続いていた。
何だ、無限ループか?
私は小さく舌打ちをして後ろを振り返った。
ヒュン。
小さな風を切る音がして、黒い影が横切った。
……何か、憑いてる。
「ビックリ?」
びっくり、後ろから声が聞こえた。振り返ると、チェーンやらキーホルダーやら眼鏡やら凄くちゃらちゃらした青年が立っていた。高校生か、大学生くらいだろうか。背丈は私の三分の一倍はある。最近テレビでよく見る、あいつみたいだ。
何か、こういう人と話してると頭が痛くなってくる気がする。
「……じゃあ」
話の何処にいても区切れるこの挨拶で一応別れを告げておくと、私はくるりと来た方向を、
「あ、後ろから通り魔」
向いた。
え。
こっちに向かって全速力走ってくる白いパーカにジーンズの男。こちらに向けられた銀の刃。紅イホウチョウ。フードの下から除く口が、不気味にニタニタしている。
ああ、走馬灯ってこんな感じなのか?
ブシュ。
「…………え」
「おめでとう。君の素質が、認められた」
ゴツ。
アスファルトに強く頭を打ち付けた音が、コンクリートのブロック塀に跳ね返った。