複雑・ファジー小説

Re: 「 カイラク 」 ( No.31 )
日時: 2011/10/13 21:48
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)
参照: ニジオタコミュショーヒキニートだが問題ないぜ☆






「————————たしのせい? 私のせいか、これは?」

 声、出た。
 目の前で起こった出来事があまりに唐突すぎて、非現実的すぎて、非日常すぎて、声が出なかったのだ。驚きと興奮と疑問と、微かな期待。搾り出した声は掠れて、とても聞き取れるような声では無かった。
 一本道に倒れこんだフード男が動かない。私の後ろでチャラチャラとアクセサリーを鳴らす男が煩わしい。私の心臓の鼓動が五月蝿い。
 血が薄汚れたアスファルトに染込んでいく。
 此処に在る男の死体が怖い。
 私は殆んど何も考えずに、後ろのチャラ男を見ないように、転がる死体を踏まないように、前へ歩き出した。歩く、少しずつ早くなる、小走りになる、走る。
 怖い。

「あっまいなぁー!」

 後ろからの大きな声に、心臓が飛び上がった。足が自然と止まった。私はゆっくりと、体ごと後ろを向く。
 かなり離れたと思った。それなのに、後ろを向くと死体とチャラ男はほんの数メートル離れているだけだった。

「逃げ出そうなんて、甘いよ! 砂糖入りのグラニュー糖より甘い!」

 足が、動かない。自分の意思じゃとても、動かせない。重い足枷をつけているみたいだ。

「この道はボクの道さ! 此処に迷い込んだ女の子は、ボクが飽きるまで出られない!!」

 出られない迷宮は無い!
 残念ながら此処は迷宮ではなくて、唯の一本道である。
 タネのないトリックは無い!
 残念ながら出られないというトリックのタネは、欠片も姿を現さない。

「おいで」

 お、い、で。
 私の中でゆっくりと、チャラ男の吐いた言葉がリピートされる。
 お、い、で。
 足が。
 お、い、で。
 足が、前に出る。さっきまで震えてたはずの私の足が、しっかりと地面を踏みしめる。
 お、い、で。

 チャラ男の前まで来た私の肩にチャラ男のアクセサリーが沢山付いた手が乗った。
 なんだかものすごく眠い。視界が白く濁って、周りが見えない。頬に服がこすれる感覚がある。背中に硬い物を押し付けられている感覚と、圧迫されている感覚がある。


「お帰り」


 小さく、聞こえた。