複雑・ファジー小説

Re: 【もっと】  「 カイラク 」  【楽になりたい】 ( No.59 )
日時: 2011/11/23 11:58
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)




 冷たい。
 軽い瞼を持ち上げてうつ伏せの体勢から起き上がり、冷たい床に触れていた頬を手のひらで包んだ。
 辺りを見回す。大理石のような床に、壁は無く、何も落ちては居ない。所々に柱が立っていて、上を見上げると天井は見えない。段々暗くなっていって、何処までも続いているように見える。
 私は今、眠っているのだろう。これは明晰夢だ。私を私がコントロールできて、全部が思い通りになる。
 最高だ。私が求めた快楽でさえ作り出せる、完璧な夢だ————。
 自然と、顔が歪んで口元がにやけてしまう。

「あー」

 声の通り方を確認してみる。音はやはりさっきのように、何処かに反響して曇って聞こえる。
 私は視線を床に落とし、小さく溜息を一つ吐いた。すっきりしない。
 そうだ。此れが明晰夢なら、このすっきりしない舞台でさえも変えられるのではないか?
 息を吸って、目を閉じる。やり方は分からないが、取り合えず私の好きな青い空を瞼の裏に創造する。
 目を開ける。目を、大きく開ける。————ああ。これだ。
 瞼の裏に浮かんだあの、透き通った淡い青と千切れた綿のような、白。それは私が創造したよりももっと美しくて、綺麗で、私の体を優しく包んでくれる。
 上も下も横も何もかも全部、あの空。

「あー!」

 口に手を添えて、さっきより大きな声で叫んでみる。声はちゃんと空を切って進んで行く。声を遮る壁は無く、何処までも、まっすぐに。
 心地いい。ふわっと、笑顔が浮かんだ。


「綺麗だなあ」

 チャラチャラという金属と金属が擦れ合う音と共に後方から、聞いたことのある声が聞こえた。ばっと振り返る。其処には、あのチャラ男の姿があった。

「君の思考も案外、暗いモンばっかりじゃないんじゃね?」

 そう言って笑う男の顔を、睨みつける。男の周りだけ、黒に近い紫色のオーラのようなものが漂っていて、折角の空が汚れている。

「そんなに怖い顔すんなってさあ、君の実力なんだから!」
「実力? 何が」

 出来るだけそっけなく、冷たく言ってみる。
 男は怯む様子も無く、さっきより酷い笑い方になって、私に言った。

「君の実力は知性じゃない、その想像力なんだ! ボクはちゃんと分かっていたよ? その圧倒的な実力をねえ!?」

 男の周りから紫色がどんどん広がって、青い空をあっさりと飲み込んだ。