複雑・ファジー小説

Re:  「 カイラク 」  ( No.71 )
日時: 2012/02/11 15:43
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 6ZbYyiXi)
参照: この小説、五話までで一話平均1167文字でした。




「君はまだまだまだまだ伸びる! 今は僕の方が実力あるけど、そのうち追い越されちゃうかもねぇ?」

 返事はしない。上がったり下がったりとぐらぐらと落ち着かない彼の声を聞いていると、私まで不安定になってこのまま床に倒れてもう一度、今度は本当に死んでしまいそうだ。存在も意識も全部此処から消えてしまう。完全な無を想像すると、眩暈がした。ぐらぐらり、ぐらり。

「いいかい、想像と、創造だ。基本と応用さえ覚えれば今度のテストは百点満点花丸でしょ!」

 男はそう言い残すと、溶けた。男の姿がどろっと黒い液体に変化して床に広がって行く。
 暫く床を眺めていたら、急に黒い液体が跳ねあがって上へ登っていき、徐々に直方体の形へ変化していった。直方体は黒からコンクリートのグレーに変わり、四角形の穴が幾つも空き始めた。薄汚れたビルのようだ。
 ビルを見上げていた首が疲れ始たので目線を落とす。地面は黒と灰色のチェッカーになっていた。自分の横と後ろに灰色の廃ビルのような直方体が、パイプやゴミ箱が置ける隙間も無いくらい密着して立っている。どうやら私を前進させようとしているようだ。

「……からふるー」

 色の無い世界は詰まらないな。
 目を閉じて、沢山の色を、色を付ける為の道具を想像する。ああ、スプレーだ、此れがいい。カランカラン、と、音がしたから目を開ける。モノクロの地面に四つのスプレー缶が落ちていて、それぞれの缶に色のラベルが貼ってあった。赤、青、黄色、緑。
 スプレー缶を拾い上げ、両手に二本ずつ持って人差し指と中指で上を抑えて持ち、両手をクロスしてポーズを決めてみる。きまった。
 普通に前進するのもモノクロの世界も詰まらないので、両脇のビルに落書きをしながら進むことにした。
 プシュウ、と、音を立てながら塗料が噴射される。ゆっくりと、歩き出した。並々に、時々カクンと折れながら進む二本の色の帯をキョロキョロと見ながら、無音の足音を聞く。

 暫く進むと、鳥居が見えた。鳥居、だろう。色の付いていない、歯車や大きなボルト、ネジや鉄板と、そういったガラクタが積まれて鳥居の形を作っている。
 鳥居の向こうにビルは無いようなので、余った塗料がもったいない気がした。色を塗ってやろうと、私はスプレー缶を大量に出して色塗りを始めた。
 綺麗に、綺麗に綺麗に綺麗に……。