複雑・ファジー小説

Re:  「 カイラク 」 ( No.81 )
日時: 2012/02/20 22:29
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 6ZbYyiXi)




「人間死んでるだけで莫大な金がかかるなんて知らなかった」

 真夜中、明かりの無い真っ暗な狭い部屋の中、一つの死体に話しかける様。可笑しい、ああ、可笑しいな。部屋の中は腐った肉が発する異臭が充満している。窓を開けに行くのもとても面倒くさい、そもそも換気ってナニ? 私は何年同じ空気の中で生きているのだろうか。

「ねえあなた、どうせ死んでるのと同じならさ、いっその事絞め殺してしまおうか?」

 死体は喋らない。そんな常識さえ、この渦を巻いた浮遊感の中では覆されるのではないか、そんな気さえしてくるから不思議だ。ああ、死体が動いたらゾンビかな。いや、ゾンビは喋らないから只の幽霊かな? でもでも幽霊は肉体が無いじゃ、ないか。
 ローテーブルにべっとりとついたよだれが右の頬に冷たく触れる。いや、薬が解けた水だろうか。どっちだろうと変わりはない。暗い部屋に慣れきった視界が映しだすのは、からっぽになった錠剤入れとカプセル入れ。その奥には頭の額の部分から白骨がチラリと覗く、くっさい死体。血はもう乾いて、只の赤いシミみたいなものになっている。シミの割に、量が多いけど。瞼が閉じていない眼球の上にはアリが群がっている。腐った肉なんぞ食って美味いのだろうか?
 肩を這う寒気を無視、脳内鳴り響く警報を無視、感情が麻痺、それさえも快感。どうしましょ、ついにぶっ壊れちゃいました。

「絞め殺すよりも殴るほうが良かった? それともあなたと同じように包丁でぶっ刺そうか。ああ、銃でも仕入れて撃ち殺してもいいわ、面倒だけど」

 死体は喋らない。そんな常識さえ……ああ、この流れ、二回目だ。
 彼を無意識に刺した右手にはまだ血がついているだろう包丁が握られている。私はずっと右の頬をローテーブルにくっつけて左を向いているので右手にはもうずいぶん長いことあっていないが、それが分かるのはアヒルのように折りたたんだ足にかすかな痛みがあるからだ。きっと包丁が右の足にぶっささってるんだろう、まあ、気持ちいいからもうなんでもいいや。
 私は錆びついたガラクタでできた重い左手を持ち上げて、残り一粒になって一人でカプセル視点で広くて、血やよだれがくっついた汚いテーブルに医とりぼっちのカプセルくんを拾って口に入れた。
 良かったね、君はもうずっと一人で取り残されることが無いんだよ。死んだから、死んだから。カプセルに命なんてないけど。

 さっきより酷くなった眩暈と快感。さっきまで寒気が走っていた背中や肩には毛虫が這い、包丁を持った右手は震えだし、包丁がぶっ刺さった右足からはアリンコが沸く。
 眠いから、目を閉じましょう。