複雑・ファジー小説

Re: 【もうすぐ完結】 「 カイラク 」 【カモ】 ( No.92 )
日時: 2012/05/20 14:25
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: CMvpO4dN)

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 あ。
 鳥居の上に座り、足をぶらぶらさせていたら、上からパンが落ちてきた。重力を無視してゆっくりと、見せつけて挑発するように。食糧だ、と思い、必死に手を伸ばすが此処からでは届かない。悔しさから手をぶんぶんと上下に振ると、危うく落ちそうになった。
 嫌な感じ。きっとあのパンは性格が悪いのだろう。

 鼓動が聞こえないなら、飛び降りても死なない筈だよな。
 狂った頭で少し考えたら、自分の心臓が動いていないことを思い出した。飛び降りたら死ぬと思っていたがまあ、別に大丈夫だろう。食べ物の為だ、多少の犠牲はやむを得ない。
 くねくねと胴体をよじって、尻を前に出す。私が座っている所は幅が狭かったため、すぐに体は前のめりになって下に落ちた。
 前髪が持ち上がり、黒と灰色のチェック模様の地面が見える。黒と灰色の、チェック。あれ? 一瞬、地面がコンクリートに見えた気がしたが、気のせいだろう。
 あれれ。段々、地面が近くなってくるにつれ、チェッカーの床がコンクリートに変わる感覚が狭くなっていく。フラッシュバックみたいに、ば、ば、ば。あ、れ。目のふちから、涙が上に向かって流れていく。……私が泣いているのではない。
 地面から三メートルくらいの距離になったとき、高速で変わっていた床の模様がコンクリートで止まった。コンクリートがうっすら赤く見える。まずい、そのまま地面に、顔から突っ込んでしまう。
 眼球のライトが切れた。



「おい」


 突然の痛みに目を開くと、うつぶせになった状態で前髪を後ろに引っ張られていた。顔がゆがむ。必死に身をよじって抵抗すると、不意に髪を引っ張っていた力が消え、そのまま地面に顔を打った。鼻から下を手で覆いながら置きあがり、その場にしゃがむ。地面はコンクリートじゃなく、元のチェッカーに戻っていた。
 誰が私の髪を引っ張ったのか。左側に見える足から上に視線をずらす。


「何で……何で、見えた?」

 
  怒りに震えた、彼女がいた。