複雑・ファジー小説
- Re: 赤。【題名を変更するかもです】 ( No.1 )
- 日時: 2012/05/09 20:31
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: LQdao1mG)
1・赤、日常を送る。
「で、色なんだが……」
おっちゃんが私を睨みつけるように見上げてくる。
両手には私がさっき注文した手袋が握られている。
私は迷わずその色を口にしながらおっちゃんに手を突き出した。
「赤で!」
おっちゃんがやっぱりなとでもいいたげにため息を吐き出して私に手袋を手渡す。
迷わず、きゅっと自分の手にその手袋をはめ込んだ。
あぁ、なんて素敵な色なんだ。
やっぱり指が手袋から出るようなものにした。
だって、そうじゃないと爪に塗った赤いマニキュアが見えなくなってしまうから。
私は赤が好きだ。
それはもう病的に。
人間は基本青色を見ると落ち着くらしいが、私は違う。
赤。
その色を見るだけで、心が落ち着く。
酒のようなものだろうか。
自分でも良くわからないほどに、赤を愛している。
実際、私の服装は赤一色だ。
赤いジャージの上下、赤い運動靴。
そして今こつこつ貯めたお金で買った、赤い手袋。
それに前の町で買った、赤いベルト式のナイフホルダー。
四本しかさせないが、それでも私はあまりナイフを使わないし、この程度で充分なのだ。
しかもすぐに抜けるし、とても便利。いい買い物をした。
まぁそのせいで前の町でこの手袋が買えなかったんだけど。
「あのさ、お嬢さん。店の前にいつまでもいないでくれないかな」
おっちゃんが店のカウンターに頬杖をつきながら私を見上げている。
おいおい、客にその態度で良いのか。
「あ、それよりなんか仕事ないですか?」
いきなり顔を近づけてきた私に驚いているおっちゃんはしばらく困ったように眉を歪ませた。
「あんた、見たところ初心者のハンターだろ?」
「おぉ、よく分かりましたね」
パチパチと手を叩いてあげるが、おっちゃんの気分は優れないようだ。
うーん、困った。
「わかるさ。装備がなってない。それじゃあ丸腰同然だよ」
おっちゃんの指が私のジャージとナイフホルダーを順々に辿る。
ナイフホルダーにはナイフが刺さっているが、柄が赤いものを選んだために小ぶりなものだ。
「はい。じゃあ丸腰同然でも安全な仕事を下さい!」
おっちゃんは最後の最後まで不機嫌そうな顔をしていた。
「じゃあ薬草を適当に取ってきてくれ」
+ + + +
森と草と水の匂いがする。
体が洗われるようだが、よくよく地面を見てみれば小さい虫がいっぱい蠢いている。
ぞわりと震える体をさすりながら、森の奥へと進む。
私はこうしていろんな人のお願いを聞いてはそれを行い、報酬を貰って生活している。
余裕があったら、余分な採取をしてそれを売ったりしている。
あくまで私が行うのはこのような採取が目的の依頼だけだ。
他のビーストと呼ばれる森とかに住む化け物の退治はもっと戦いに慣れているハンターさんにお願いする。
だって、無理だ。
あんな化け物に勝つ自信がない。
ばっさばっさと倒していける運動能力がわからない。
そうしているうちに森を結構すすんだようで、草がたくさん生えているところを発見した。
運動靴で草を踏みつけながら、それに近づくと多少虫がいるようだが状態はいい。
よしよし。
これにしよう。
右のほうについていたナイフを1本抜き取る。
そしてザクリと根元から草を引き裂く。
こんな私でも、ある程度は森になれてきたつもりだ。
本当にハンターをやり始めた頃は、薬草の種類もわからないので適当に取ってきていた。
んで、怒られた。
毒の草も混じっていたらしい。
依頼された分より少し多く薬草を採取して立ち上がろうとしたとき、だった。
《ザリ》
それは、草を踏む音。
私のものではない。
私は今、腰を半分浮かせたままという酷く間抜けな状態でとまっているのだから。
他の誰かの。
いや、なにかの?
恐る恐る、振り返る。
と。
〜つづく〜
一話目です。
これから始まったと思います。
続けると良いなーと思っております。
よろしくお願いします。
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