複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【題名変えようかな】 ( No.105 )
日時: 2012/06/04 20:46
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



20・彼の姿。


お母さんも、お父さんも優しい人だった。それが、怖かった。でも、好きだった。好きでありたかった。何かにしがみついていないと、自分が消えてしまいそうだった。お母さんとお父さんが、自分を求めているのだと、自己暗示した。そうすれば、なんとなく、生きている感じがした。
お父さんの黄色い髪。お母さんの青い髪。お父さんの青い目。お母さんの黄色い目。それを見ていると、自分がここに居る気がした。
貧しくてぼろぼろの家には一切、鏡がなかった。銀食器もなくて、お母さんとお父さんは俺を外に出さなかった。一日は、明るくなって、暗くなると終る。意味もない日々が続くと、頭がおかしくなりそうだった。
頑張って息をした。無意識に息ができる日なんて、来なかった。
ある日、俺は外に出た。
出来心で。お父さんもお母さんの目を盗んで。
川の水に映る自分を初めて見て、俺は胃に溜まっていた食べ物を全て吐き出した。

気持ち悪い。
こんなの、自分じゃない。嫌だ。

ここで初めて、俺はお父さんとお母さんが俺を外に出さなかった意味を知った。

俺に、俺を見せないため。


 + + + +


「ムーヴィ? なぁ、朝だぜ?」

バカっぽい声で目を覚ます。
懐かしい夢を見た。昔話。嫌な夢。うなされていなかっただろうか。まぁ、うなされていたら、銀は俺を起こしただろう。
起き上がってみると、銀が首を傾げた。

「ムーヴィの寝起きが悪いの、珍しーな? 疲れた? 腹減った?」

どうやら、心配されているらしい。
俺はそれより、昨夜の銀の行動の方が不安だ。俺は夜はいつも外で見回りをしていたから、気が付かなかったけれど、もしかしたらいつもうなされていたのだろうか。
可哀想なことをした。
まだ、アイツに縛られているんだ。まぁ、俺たちがアイツから解放される日なんて、きっと来ないのだけれど。
それでも、少しでも幸せを感じていて欲しい。少しでも長く。
アシュリーとパルは、大丈夫だろうか。
俺はどうなってもいいから、銀たちは幸せになってほしい。第2の人生を歩んでほしい。光の道。

「……平気だ。銀はもう平気か?」

「おう! 平気平気!」

いつも通りの銀の笑顔に、俺は安堵のため息を吐いた。
やっと、目が覚めた。


〜つづく〜


二十話目です。
なんだか無駄なことばっかりしている。