複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【題名変えようかな】 ( No.106 )
日時: 2012/07/11 18:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)

21・不満と不安、情緒不安定。


私は昔のこと、ちゃんと覚えている。お父さんもお母さんもいて、普通の生活。それなりに幸せだった。
でも、銀は違うそうだ。お母さんの顔も、お父さんの顔も、憶えていないと言う。そんなことがあるのか。そんなことが。一体どんな生活を送って来たって言うんだ。
辛そうな瞳を見たことがない。明るくて、バカで。そんな銀が。

「くっそ……」

そんなことを考えていると、辺りは明るくなって、朝がやって来た。
一睡もできなかった。
銀がムーヴィを起こすのを眺めながら、外に出る。アイツのせいで眠れなかった。大きな欠伸を一つして、軽く伸びをする。
私はまだこの世界にいる。帰れる術は見つかっていない。でも、なんか、帰りたく無いかもしれない。
なんで?
銀が、気になる。気になるって異性的な問題ではなく、放って置けない、というか。変なの。私がこんなこと思うなんて。変だ。私この世界に来て、思考回路までおかしくなっちゃったのかな。それだけは避けたかったな。私じゃないなんて、やだし。

「……おい」

この不機嫌そうな声は、ムーヴィだ。朝っぱらから、何てことだ。コイツ、寝起きが悪いのかな。まぁ、昼でも夜でもこんな感じだけど。銀が関わると違う。必死になる感じ。生きる感じ。親みたいな顔になる感じ。
きっとアシュリーとか言う人も、銀の保護者みたいな感じなんだろうな。

「……何」

「昨日の、あれ、なんだ」

昨日?……あぁ、銀がうなされた時のかな。

「何って……ムーヴィの方が銀のことはよく分かるでしょ」

「銀のことじゃない」

ムーヴィが私に近寄ってきたものだから、なんとなく嫌で、後ろに下がる。
少し、怖い。最初よりは怖くないけど。なんだろ。なんでコイツ、こんなに銀のこと。

「お前のことだ」

「私の?」

全く身に覚えがない。変なことをしただろうか。そんなにムーヴィが不機嫌になるようなこと、してないと思う。むしろ、感謝されてもいい方だ。あのまま気が付かなかったら、銀は多分毎晩うなされて、あれ以上バカになってしまったかも知れないのだ。感謝すべきである。

「『逆に、どうして私がそこまで気を使わなきゃいけないわけ?』」

昨晩私が言ったセリフ。ムーヴィはそれを覚えていたようで、憶えていなかった私に言って見せた。厭味ったらしい奴。最悪。
確かに。そんなこと言った。

「それが?」

「銀はお前のこと助けたんだぞ。なのに関係みたいな顔して、なんなんだよお前」

珍しく長くしゃべるムーヴィ。相当頭に来ているようだった。
口の中が乾く。言い返せばいいのに。何だか変な感じ。

「お前、なんだよっ」

半分やけくそになっているムーヴィを見ながら、私は必死に考えたけれど、答えは出なかった。

なんなんだろうね、私。


〜つづく〜


二十一話目です。
長いですね、ごめんなさい。