複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【題名変えようかな】 ( No.110 )
日時: 2012/06/08 21:11
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



25・塩分を含んだ、甘い液体。


俺が、悪い。
遠くにいても、特定の人物に話しかけられるという魔術がある。だがそれには時間と、あと道具が必要だ。もちろん、腕も。
それが使えれば、銀たちに連絡を取って、落ち合うことができるのに。
俺には、高度な魔術だ。
できない。できっこない。母さんならできるのだろうか。
俺にはできないよ。助けてくれよ。このまま1人で、アシュリーを守りきる自信がない。急に失ってしまったんだ。
もし、銀たちと会ったときに、アシュリーがいなかったら? アシュリーが無事じゃなかったら? 銀もムーヴィも、アシュリーのことが好きだ。だけど、俺は? 俺は、許されるのか? 俺がアシュリーを守れなかったとき、銀たちは俺を許してくれるのか?

「パル」

アシュリーの声に顔を上げる。アシュリーは俺に、温かい視線を浴びせていた。
眩しくてさ。目を瞑ってしまいそうなんだよ。でも、堪えている。アシュリーを、見ていたいから。

「ねぇ、私さ、パルと出会えて幸せ」

幸せ? 幸せ。
俺と出会えて。アシュリーが、幸せ。
なんなんだよ。
しっかり見ているのに、全然見えないじゃん。霞んでる。じんわりと、膜が掛かったようになる。

「俺、も」

声もうまく出せない。
苦しい。咄嗟に、左胸を抑えた。

「そう。それを聞いてもっと幸せ。……パル。パルは私の幸せを作ってくれてるんだよ」

作ってる。のか。
分からない。幸せって、作るものなの。与えられるものじゃないの。……あぁ、だから俺、いつまで経っても幸せの意味が分からなかったのか。幸せが来るのを、待っていたから、いけなかったんだね。

「……アシュリー」

「私の幸せの作るのは、嫌?」

いたずらっぽく笑うアシュリーの表情も、ぼやけている。
何なんだよ、コレ。苦しい。

「……嫌じゃ、ないよ」

頬が熱い。顔を覆おうとすると、手に液体が付いた。
何なんだよ、コレ。

「……なら、」

アシュリーの両手が、俺の顔を包むようにして伸びる。俺はその少し小さな手に、自身の手を重ねた。

「笑って。頼って」

無理に笑おうとしても、上手くできなくて、どんどん涙があふれるだけだった。
アシュリーはいつも通り、笑顔だった。


〜つづく〜


二十五話目です。
短め。