複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.12 )
日時: 2012/05/09 20:59
名前: 揶揄菟唖 (ID: LQdao1mG)

8・赤、アレを壊す。


今回のは全て、偽物だ。

『客』もそう言う。
バカ上司も詳細を伝える手紙でそういっていた。
この場合は書いてあった、か。
そんなことはどうでもいい。

ただ、その言葉が信じられない。

偽物……?
あの、ハラダ・ファン・ゴブランドが偽物を?

いまいち実感がわかない。

いままでハラダ・ファン・ゴブランドに良い印象を抱いたことはない。
でも金のにおいしかしない武器を作っていたとしても、それでも偽物を売ったという話は聞いたことがなかった。

そこだけは職人の意地というか、そういうものが感じられて良かったのに。

偽物を売るなんて。

もともと仲良くなったつもりはないが、裏切られた気分だ。

仕事に私情を挟むのは良くないとは思っているが久しぶりにむかつく。

少しくらい派手にしても良いだろう。

なんでもそれはもうひどいらしい。

装飾はつなぎ目が粗く、すぐに剥がれる。
切れ味も悪い。
軽すぎる。

見た目の美しさ、値段の高さでハラダ・ファン・ゴブランドは金持ちを良くひきつける。
猟の経験がない金持ちでもコレクションしている輩は多い。
『客』もそのうちの1人なのだろう。
だが、猟の経験がなくても自分のコレクションをただ飾っておいても満足のいかない『客』は金に物を言わせて危険性の低いドワーフを用意させて、お遊びの狩りをした。

そして、折れた、らしい。

そんな、脆く、装飾が雑にも関わらず何故、売れたのか。

ハラダ・ファン・ゴ生誕2000年を記念して作られたもの、と言うのもあるだろうが一番は脆くても気付かないからだろう。

ハラダ・ファン・ゴブランに魅了されているのは金持ちだけではない。
2つ名をもった有名なハンターも使っているだろう。
彼等のしなやかな、鍛えられた筋肉は力の加わるバランスを調節し、折れないように自然にしてしまうのだ。
あたしはそう思う。
そして、雑な装飾も《デザイン》として受けいれられてしまうのだ。

これからあたしはそれを確かめに行く。

それが今回の仕事。

 + + + +

悪寒。

どうしよう。

昨日と同じ。

今度は死ぬかもしれない。
今度こそオワリかもしれない。

怖い。

助けて欲しい。

どうしよう。

「っは」

喉の奥にたまっていた空気を吐き出し、身体が動いた。

私のバカな思考は身体の動きの意味が分からなかった。

でも。
私の後ろで何かが通り空気を切り裂く音がしたから、多分私の身体はそれから逃げたかったんだと思う。

なんで動いたのかとかそんなのはどうでもいい。
野生の勘だ。
きっとそうだ。

踵に重心をかけて180度回転した。
攻撃をかわされてよろめく身体を整えようとしている白い犬を睨みつける。

これから、どうする。

レッドライアーはきっと今私に向かって走ってきてくれているだろう。
多分。
レッドライアーが優しければきっと。

私の手は背中に伸びている。

その手はハラダ・ファン・ゴの武器の柄を握っていた。

バカか。
自分はバカか。

まるで、戦えといっているようだ。

無理。

……昨日までは。

なんか今ならできる気がする。

いつもの頼りないナイフじゃないからなのか。
後ろにレッドライアーがいるからなのか。

わからないけど。

とりあえず。
やってみるか。

私は素早くハラダ・ファン・ゴの武器を背中から引き抜いて、私に向かって走ってきている白い犬に振り上げた。

犬が近くなるにつれて恐怖心はましていく。

振り下ろす瞬間はやっぱり怖くて、私はぎゅっと目を瞑った。

そんな私の耳に届いたのは、

————キィィィン————

高い、金属音。


〜つづく〜

八話目ですかね。
ぬるぬると話はすすんでます。
やっぱ書きやすい!
今まで暗い話しか書いてないのでなんか新鮮です。
というか私は行を空けすぎなんでしょうか。


next⇒黒、赤を語る。(予定)