複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【参照600あざます!三章→四章へ!】 ( No.120 )
- 日時: 2012/06/13 21:33
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
4・成長痛。
振り返ったアスラが、驚いたような、嫌だけど顔に出さないように頑張っているけれど、やはり会いたくなかった、というような複雑な表情を浮かべた。
なんだ、ちゃんと人間らしいじゃん。この前は人形、作り物めいた様な雰囲気だったけれど。なんか、変わったのかな。
今は町中だし、赤女も居ないし、攻撃されることも無いだろう、なんて今思った。普通は話しかける前に思うことだろうが、今さっきは何となく、衝動で話しかけてしまったのだ。いやいや、危ないところだった。
「……何の用です」
呆れたように眉をひそめるコイツの隣を歩く。
「別に何も。久しぶりだなって思っただけ」
そんな理由で、とため息を漏らすアスラ。
結構元気そうだった。相変わらず俺の赤い髪と、コイツの異様な姿にくぎ付けになるものは多い。それでもなんか嫌じゃなかった。アスラは多分もう慣れたんだろうな。
「そうですか。……アンタは相変わらず、呑気そうです」
軽く嫌味に聞こえるセリフはスルーして、俺はアスラの服をさっと見た。動きやすそうな、それほどセンスもださくないような、服。青年のようだ。アスラによく似合う。アスラは足が長いから。
「お前、ハラダ・ファン・ゴの仕事は?」
「ん? あぁ……、辞めた」
さらっといったアスラの言葉に驚いて、一瞬止まる。それでも再び歩き出した。
アスラは片手に下げた袋から、パンを出して小さな口で咥えた。
いいね、上品な食べ方だ。朝に見たあのアホ男とはだいぶ違う。
「なんでだよ、あそこ給料良いんだろ」
アスラの袋から、俺も1つパンを拝借する。不機嫌そうにアスラは俺を睨んだが、止めないから良いんだろう。そう思って口に運ぶ。
俺よりも先に赤女が部屋を出て、しかもアイツは俺の飯を作っていなかったので、腹が減っていたんだ。
「……給料の問題じゃない。止めたいから、続けたくなくて、止めたんだよ」
そう言うアスラの表情は、すっきりしているような感じがした。
うん。後悔はしていなさそうだ。それなら、いいと思う。自分が満足していれば。それが物事を決める時の、一番大切な物だ。
なんだか、俺はそういうことないんだよな。何かを自分で決めて、達成感とか満足感とか。味わってみたい。
「そうか。……あのおっさんのことは、すまなかったと思う」
なんだか歩きたくなくなって、その場に止まった。アスラを見ていられなくて、足元に視線を下げた。
「……いや。お前のせいじゃない。でも、」
言葉の続きを濁らせるアスラ。怖くなって、顔を上げる。するとアスラも俯いていた。それでもちゃっかりパンは食べている。俺も1口、口の中に含んだ。
「あの女のせいでは、ある」
目を閉じて、開く。その時にはもう、アスラの目はあの時と同じものになっていた。
口の中が、酷く乾く。パンの少し甘い香りに、少し浸っていたかった。
〜つづく〜
四話目です。
最近更新が早いのは、キャラがまた増えたので、その子たちを早く出したいのです。