複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【参照600あざます!三章→四章へ!】 ( No.121 )
日時: 2012/06/15 21:34
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



5・風と雪。


「あの、本当に良かったんでしょうか」

少し前を行く凪を見ながら、歩を進める。もちろん、転ばないように足元にも注意を払う。ライアーと歩く時よりも、歩きやすい。多分凪は私にスピードを合わせてくれているのだと思う。優しい人だ。気遣いができる。

「ん? 何がや?」

ほら。ちゃんと返してくれるし。話すときはちゃんと目を合わせて話してくれるし。ライアーとは全然違うよ。

「ほら、ライアーさんを置いてきちゃって」

罪悪感がある。本当は1日だけ1人で狩りに出たら、次の日からはライアーを手伝おうと思って居たんだ。それなのに、何も役に立てずに、こうして今も勝手な行動をとっている。いくら凪が誘ったとはいえ、やっぱり駄目だっただろうか。ライアー怒っているだろうな。

「ワレがしたいと思ったことはしてええんやで」

凪は笑ってくれる。私が正しいのだと、証明してくれる。それが嬉しくて溜まらない。誰かに証明してもらわないと、自分の行動に価値を見いだせない。私はとても弱いよ。ライアーや凪は強い。他人の言葉や行動に価値を付けることができる。人に自信を持たせることができる。でもさ、思うんだけど、そんな人は一体、誰に価値を見出して貰うんだろう。優しい人は、一体誰に優しくして貰うの?

「私のしたいこと」

声に出してみる。私のしたいことか。そういえば、したいことってなんだろう。
ライアーの役に立ちたい。何か理由を持って、ライアーについていきたい。
私、そんなこと思っていたのか。私にもわからない私の本音が、あったなんて。その気持ちを知ると、少し心が軽くなった気がする。

「凪さんは、何がしたくて、ハンターをしているんですか?」

それは単純な疑問だった。私は特に理由はないけど、でも凪のことだ。何か理由があるのだと、勝手に思った。これで無かったらなんか、気まずい空気になりそうだと思った。でも、笑顔で振り返ってくる凪を見て、理由が確かにあるのだと確信した。

「ワシ、歴史がすっきやねん。やから歴史を知るためにハンターやってんだ」

満足そうに語る凪を見て、こっちまで頬が緩む。これだよ。凪は人を癒す効果がある。そんな凪に出会えて、私ってば幸運なんだな。
偶然に森で出会った凪。話しかけてくる凪に最初は警戒したけど、話を聞いているうちに疑う必要がないと知った。こんな人が悪い人のはずがない。直感だった。よく笑う、纏う、振り撒く雰囲気がとにかく優しくて、暖かくて柔らかい人。ライアーさんとはウマが合わないとそりゃあ思ったけど、でも友達になっていたから良いかなって思って部屋に招待した。あの夜は楽しかった。先に寝てしまった凪をライアーさんの部屋に残して、私も床に就いた。遅寝なのに、早起きな凪に感心した。

「歴史、ですか」

新鮮な言葉だ。そんな興味が無かったから。

「赤き時代って、知ってるか?」


〜つづく〜


五話目です。
最近書きにくいな、凪のせいだ。