複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.136 )
日時: 2012/07/08 20:51
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



18・貴重な体験? 嬉しくねーよ!!


う、わ。
とかなんだか、変な声が出た。でも、すぐに目をつぶって、息を止める。臭い。臭い。変な臭いがする。生臭くて、生乾きみたいな匂い。気持ち悪くなってきた。
触手が、私の顔を覆い、首元から服の中に侵入したりして、私を絡め取る。ずるりと私の体は攫われて、凪から引き離された。
どこ。凪はどこ。上はどこ。下は。息が苦しい。耐えきれなくて、一息。臭い。やばい、本当に気持ち悪くなってきた。

「雪羽ちゃんっ!!」

凪の焦った声。耳の近くでは触手が這い回る音がする。何もかもが気持ち悪くて。ヤダ。ヤダよ。目を開けたくない。開けたところで何が見える。何も見えないから。
ナイフは。そうだ、ナイフ。
手を動かして、腰からナイフを抜き取った。
一か八か、やってみるしかない。
ごめん。凪。銃は、どっか行った。高いだろうな。私はどうも、人の物を雑に扱ってしまうな。

「っっっ!!」

やるしか、無いだろ。気持ち悪いし、とうとう耳の穴まで侵入してきたりしてるけど、なんかもうするしかないだろ。私の不注意だし。辛うじて、触手が回っているのは顔から肩までだけだし。やるしか。

「!?」

その時だった。私の傷を、触手が撫でた。痛い。痛くて、声も出ない。あの白い犬にっ引っかかれた、傷。塞がって来た、傷。その傷に、触手が入ってきたのだ。皮膚を破り、激痛が走る。
いやいやいや。それは無いだろ。それは無いだろ。痛いって痛すぎるって。驚いて、目が開く。痛い。痛い。ぶちぶちぶち。皮膚が。また傷が増える。やっと塞がって来たのに。

「雪羽ちゃんに、何するんやっ」

背中までジャージが捲られて、恥ずかしい。でも痛い。痛いの方が勝る。勝りまくってる。血が出ている。絶対出てる、よ。
凪が叫んだと思ったら、ぶちりと音がして、私の傷を抉っていた触手が消えた。痛みはジュクジュクして消えない。熱い。血が熱い。

「シツコイ奴やなっ。待ってて、すぐ助けるからな!!」

凪が必死になってくれている。私も、自分でナイフを振って、触手を切った。でも減る気配はない。
どうしたら。このままじゃ、限が無い。方法は、方法は。私はどうなってもいい、凪だけでも助かる方法は。私は今喋れないし。粘液が垂れてきて、ぐちゃぐちゃだ。気持ち悪い。

「しゃあないっ」

そういって、凪は私と触手の間に、割って入ってきた。急に入って来た存在に触手は驚いたのか、私を離して、凪を囲む。
私は地面に尻餅を付いた。そして、黄色い触手に取りつかれて要る凪を、見上げた。
髪も、何もかもべとべと。でも、生きている。口も開けられる。目だって。背中は相変わらず痛い。
でも、凪は。凪は、間もなく、全身を覆われる。

「凪さん!」


〜つづく〜


十八話目でした。
いつの間にか100話超えてました。ありがとうございます。