複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.137 )
- 日時: 2012/07/09 21:59
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
19・優しさと苦しさ。
助けないと、と思う。頭の中では分かっている。分かっているはずなのだ。でも動かない。動いてくれない。動けよ。
凪が大変なことになっている。私の時とは違い、全身を包まれてしまっている。何をされるか分からない。あの鋏で、両断されてしまうかもしれない。そんなの駄目だ。あんなに優しい凪が、私のために死ぬなんて、そんなの絶対に、駄目。
死ぬなら私が。私が、代わるから。お願いだ。凪を殺さないで。お願いだ。私が、代わるから。
粘液なのか、涙なのか分からない物が、頬を伝う。鼻水も出てきた。今の私は相当汚い。
私には、何ができる? ナイフで、助ける? こんな安っぽいナイフで?
私はこのナイフと一緒だ。使えない、ただの道具。私は他人に迷惑をかけるから、もっと達が悪い。そして現在進行形で、迷惑をかけている。
ライアー。ライアー。助けてくれ。私じゃあ無理だ。凪が、死んじゃう。私のせいで、私なんかのせいで、死んじゃう。嫌だ、嫌だ。
『雪羽ー、お前は自由に生きても良いと思うんだよー、だって俺より自由だしさー、ここから出ることだってできるだろ?』
古い友人の言葉が、私の脳裏を過る。優しく笑う彼の顔。彼はあまり笑わない人だった。でも、その分優しく笑う人だった。私はそんな彼が好きだった。友人として。でも、彼は。
『俺は、明日死ぬんだよな。大丈夫だよ、雪羽なら平気平気。だって、』
彼は、殺された。、村に殺された。村に、狂った村に。彼はそれを知っていた。自分が殺されるって知っていた。それで、笑ったのだ。なんて強いのだろう。なんて、嘘が上手いのだろう。私はそんな彼が好きだった。友人として。
彼は言った。私に言った。間違いなく言った。諦めた様な笑顔で。私はその顔が、心底嫌いだ。
『そのためにお前の親父が、』
お前を、犯したんだろ。
そう、だ。父が私を犯したのは。私を守るためで。だから、私は父を許したのだ。私が今生きているのは、村から出ることが出来たのは。彼のおかげで。そして、お父さんとお母さんのおかげ。私は、この命を大切にしなきゃいけない。私は、誰よりも自分を大切にしなければ。
だから、代わることなんかできないのだ。代わっちゃいけない。だから。私は。
震える脚を無理やりに立たせる。
絶対に私は生き残る。
〜つづく〜
十九話目です。
早いですね。最近書きやすい。