複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.140 )
日時: 2012/07/13 18:35
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



22・悪化と劣化の狭間で。


夢っていうのには、色々と種類があって。自分が分かるものとか、分からないものとか。自由に動ける物と、動けない物。色が付いている物とか、付いていない物とか。色んな世界があって。
そして、これを分類するなら、悪夢だ。
私はよく夢を見る。寝る前に色々と考え事をしているからか、多種多様な夢。最近はライアーとか凪も出てくる。
これは夢だ。夢。自分で動けて、色のついている夢。でも、自分で分かっているのか、どうか、分からない。夢なのか、これは、夢か。私の望通り、夢か。夢なら良い。さっきまで完全に現実だった。でも、夢。
……そんな都合の良いことは、無い。あるはずが無い。それが世界で。そんな世界で、私たちは生きていくしかない。
全身は凍りついた。眼球が、ビーストから離れない。目はどこか分からない。それでも、じっと顔だろう所から、目を離すことができない。現実から目が離せない。
凪は赤をばら撒きながら、地面に倒れている。お腹に、ぽっかりと大きな穴が開いている。私のせいだ。私のせいだ。私が、我儘だから。聞き分けが悪いから。私が全部悪い。否定してくれなくていい。私は悪い。それを、否定しないで。私は悪くないと言わないで。私を許さないで。最後まで、優しくしないで。
汗が止まらない。粘液が乾いてきて、ぱりぱりしている。涙はぴったりと止まった。気持ち悪いとか、苦しいとか、怖いとか、考えられない。
死ぬ。絶対死ぬ。絶対死ぬ。私は死ぬ。だって、勝てるはずがない。私に、こんなギガントを、倒せというのか。そうしないと、生き残れない。私、生き残りたいのか。私は、生きていて良いのか。このまま生きていたら、きっとまた人に迷惑をかける。こんな最悪の事態が、また起きるかもしれない。私は、改善しないから。改善。しなくちゃ。改善を。こんな生活嫌だ。嫌なんだよ。私だけで手いっぱいな私なんて、嫌だ。私だって、私だって、凪みたいに。ライアーみたいに。お父さんみたいに。人のことも守れる人間に、なりたい。そう、決めた。変わろうと、思った。違う。思っている。だから。私は。大丈夫だ。私なら、大丈夫。大丈夫。
私の手の汗は、不思議と引いた。何事も無かったかのように、心は落ち着いている。
私は、銃を構えた。体が動く。軽い。軽い。自分の体じゃないようだ。誰かに、操られて居るようだ。
ふっと息を短くは居て、視線の先のギガントを見据える。
どこからか、自身が湧いてくる。私なら、平気だ。だって、私だもの。ここでなんか死ぬはずは無い。引き金に、指を添える。
もう、いいや。当たらなくてもいいや。
私が今、自分で道を開いているかどうか。それが、大切だ。ここで、変わるんだ。私は、自分で立つ。自分で開いた道を歩く。他人の開いた道は、もう歩きたくない。
適当に、無心で標的を定める。そして。
迷うことは一瞬だって無かった。
私の指は、あっさりと引き金を引いた。

腕に衝撃が伝わって、思わず腰が引ける。驚いたけど、すぐに立て直して、ギガントの様子を見る。
よし。当たっている。これだけでかいのだ。当たるのは当然だ。いや、当然ではないか。
弾は、ギガントの頭の右側を深く抉っていた。紫の甲羅のような頭の断面からは、黄色の触手のミニバージョンみたいのが、びちびちと跳ねている。気持ち悪いけど、まだまだ動けるようだし、緊張を解いてはいけない。そんな事は、分かっている。大丈夫だ。調子には乗っていない。頭はいたって冷静だ。
もういっちょ、かますか。
そう思って、再び銃口を向ける。
一発目で、十分の自信を持てた。

良かった。ほら。

私は、大丈夫なんだって。


〜つづく〜


二十二話目です。
会話文がないだと。
こんなことあったっけ。