複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.141 )
- 日時: 2012/07/14 14:21
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
23・一方通行の三途の川。
今度も、何も考えないで、撃った。もう一発。死んでいようが、生きていようが、関係ない。念のために、もう一発。空薬莢が、足元に散らばっていく。
ただただ無心に撃つ。何度も、何度も、少しずつ位置を変えて。
自分が少し、怖い。なんでこんなに無心で撃てるんだろう。相手はさっきまで恐くてたまらなかった、ギガント。もう一生、絶対に倒すことなんて出来ないと思っていた化け物。そんな相手に、私は今、たった1人で立ち向かって居る。他人の銃を使って、無心で。
何も考えられない。腕がしびれて来ている。それでも止めない。
コイツは、凪を殺した。私に優しくしてくれた凪を。違うよ。私にとって凪は、他人なんかじゃない。他人じゃ無かった。もう身近な存在になっていた。
かちゃん。
いきなり、手ごたえが無くなった。あぁ、そうか。弾が終わったんだ。
急いで銃から片手を離して、その手にナイフを握る。まだ、銃は使える。殴るのにだって使える。ナイフだけじゃあどうにも頼りないから、手放さない。
私はギガントの居る方向に目を向けた。気配がない。逃げられた? 違う。違った。そこには、紫の物体が、倒れていた。息が口から洩れる。勝った。勝ったんだ。恐る恐る近付いて、確認してみても、反応しない。触手の一本だって、動かない。やった。勝った。
そう思うと、全身から力が抜けて、がくりと膝をつく。手がジンジンと痛い。背中の痛みがぶり返す。
そして、ギガントの体の先を見た。
凪。凪。優しい凪。優しかった凪。私の、友達。凪。凪。凪が。凪が。
再び、涙が出て来た。手で拭っても、まだまだ出て来る。ヤダな。私、まだまだ弱いな。違う。違うって。私は悲しい。悲しくて、死んでしまいたい。凪を見殺しにした自分を、消してしまいたい。私は、なんて酷い奴なんだろう。
手を土に着けて、這いずるように、凪に近付く。血の匂いが酷い。それでも、私は近付きたかった。凪に、触れたかった。あと少しで、私の手が凪に触れる、そう思った時、首に何かが巻き付いた。
「っ!!!!」
驚いて、涙が止まる。凪の姿が霞む。凪の柔らかい髪は、粘液でべたついている。背中にぽっかりと空いた穴を見ると、こっちの心にも穴が開く。
私のせいだ。私のせい。触手は遠慮なく、私の首を絞めつける。苦しい。でも、もう良いかもしれない。どうせ、私はここまでだったんだ。生易しいから。いつだか、ギガントの子供にしっかりとライアーは止めを差していた。私の様にバカじゃ無いから。
ライアー。ライアーには本当に申し訳ないことをした。ライアーは私たちが死んだのを、いつ知るだろう。一生、知らないかもしれない。それは少し、嫌だな。
意識が、離れていく。とてつもなく、眠い。驚くほど、力が出ない。
死を、覚悟した。
「赤女……?」
のに。
〜つづく〜
二十三話目です。
まぁ、主人公だからね。