複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.142 )
- 日時: 2012/07/15 21:32
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
24・現実なんて、大嫌い。
息を切らして、森を駆けていると、いつかの日のように緑と対照的な色、赤がちらりと見えた。もしや、と思い、近寄るとやはり赤女で。だけど、全然ほっとしなかった。胸がぎゅっとしまって、本当に心の底から驚いた。
赤女が、後ろで倒れているギガントの黄色い触手に首を絞められて、居た。
息が止まって、頬から汗が出た。苦しそうだけど、逆らう様子も無い。
何やってるんだよ、抵抗しろよ。じゃないと、じゃないと、死んじまうだろうが。なんで、抵抗しないんだよ。怒りがどこからか込みあげてきて、何をどうしていいか分からなかった。でも、赤女が抵抗していない理由は、分かった。すぐに。
視界の端の、赤。それは、間違いなくあの耳障りな喋り方をする。凪。凪だ。さっきまで、話していた。記憶の新しい、人物。それが今、それが今。
なんだよ、これ。俺、失敗したのかよ。一足遅かったとか、そういう感じ? 冗談じゃない。冗談じゃない。どっちも助けるって、柄にでも無くそう思って、そんな自分に疑問を待たずに、迷うことも無く、ここにやって来たのに。間に合わなかった? 守れなかった? 最悪、最悪。消えたい。ウソだよ、こんなの、ウソウソウソ。
ウソなんだって。起きろよ。ウソなんだろ。ウソだって言えよ。立って、起き上がって、冗談ですって、笑えよ。そうしたら、そうしたなら、俺だって、笑えるのに。今なら、笑って許してやるって。今なら、今だけなら。だから、起きてくれよ。お願いだから。
なんて俺は考えていた。落ち付け。落ち付けって。落ち付かないと、最悪な事態が、取り返しのつかない事になる。そうならないように、しないといけない。だから。だから。
俺は、腰から短刀を引き抜いて、赤女の首に伸びる触手を、両断した。気持ちの悪い液体が少し体に掛かるけど、気にしない。そしてすぐさま、紫色に近付いて、頭らしき場所を切り落として、動かないことを確認する。うん、大丈夫そうだ。
俺は慌てて、少しずつ冷えてきた頭のまま、ため息をついた。咳込んでいた赤女が、心配そうに俺を見上げる。
違うぞ。違う。呆れたんじゃない。ほっとしたんだ。よかった。赤女は助けられた。でも、でも。
「ライアーさん、ライアーさん」
コイツには珍しく、お礼の言葉を言わなかった。そこに違和感を感じたけれど、黙っておいた。だって、赤女の体が、震えていたから。何だか色々大変だったようだ。赤女の背中の部分の赤が、濃くなっている。
血か。
なんだよ、自分も傷ついてんじゃんか。お前も悪くないよ。凪だって、悪くないのに。まるでさ、お前らが弱いのが悪いみたいなの、止めてくれよ。違うんだって。俺が悪い。俺が、助けられなかった。
俺は、震える赤女の頭を撫でた。なぁ、どうしてこんな優しい手つきするんだよ、俺。何のつもりだよ。俺は、最低なのに。
赤女は、俺の手を握った。だからお前も、俺に優しい手つきしないでくれよ。泣きたくなるだろ。泣きそうなんだって。
俺、俺が一番嫌い。赤い髪をした、赤い目をした自分が、嫌い。クオが行った『嘘吐き』の意味はいまだに分からないけれど、いや、分からないフリをしているけれど、それでも嫌い。自分が嫌い。
「凪さんが、死んじゃいました」
だから、そうやって無理して笑わないでくれよ。無理にでも、思いっきり泣いてくれよ。俺の分まで泣いてくれよ。そうじゃないと、壊れちゃいそうになるだろ。
それにしても、認めない。俺は、認めない。認めたくない。俺は、この事実を、認めない。つまり、さ。
「死んでねぇよ」
捻じ曲げるんだよ。
〜つづく〜
二十四話目です。
文字数が分からない。