複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.147 )
日時: 2012/07/22 19:21
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



29・欠陥品の修理。


赤いよ、赤いよ。全部赤いよ。世界が赤いよ。綺麗でしょ。
そう言って、両手を広げる。

さぁ、世界の終末に、大きな拍手を!!


 + + + +


「ライアーさん」

列車の中にある食堂のテーブルに肘をついて、何も考えずに景色を見ていると、突然扉が開いて、赤女が顔を出した。てっきり、凪にずっとついていると思っていたので、驚いて、体が跳ねる。だけど、すぐに立て直す。

「……どうしたんだよ」

扉を後ろ手に閉めて、列車の揺れに抗うために手すりを片手で握る赤女。
言いたい事は、分かる。
あの時、俺が来る前に、何があったのか。
そんな恐ろしいことを、この口は語ろうとしている。俺は耳を塞ぎたくて、仕方がなくて。それなのに。体が思うように動かなくて。
沈黙の時間に、貼り付けられたようだ。

「私、逃げようと思ったんです」

「……は?」

意外な告白だった。
赤女が、逃げようとした? なんでだ。赤女は、きっと凪を最初から最後まで、助けよとしていたのかと、思っていた。んなわけないよな。そうだよ。赤女だって、人間なんだ。
逃げようとするのは当然の、本能。

「自分だけでも、助かろうと、思いました。その感情に、疑問を持ちませんでした。自分さえ助かれば良いと、思ったんです。だから、凪さんを助けられませんでした」

赤女の言葉に、抑揚は無い。つまり、用意されていた言葉を、読み上げているようで。
そんな喋り方をするような奴じゃ、無かったのに。そう思っていたのは、そう信じていたのは、俺だけだったってこと? 赤女は、俺が想像したような、綺麗事の塊だけじゃあ、無いってこと? そのことを勝手に信じて、勝手に裏切られたような気分になっている俺は、変ってこと?
バカってこと?

「最低、ですよね」

自分をバカにするように笑う赤女。その顔は、何もかも諦めているようだ。
そんな顔、赤女には似合わないって。俺の中に居る赤女には、似合わないって。こんな表情を作れるようにしてしまったのは、俺なのかな。そうかもしれない。だって出会った当初は、こんな顔、しなかった。一度だって、しなかった。俺が、赤女に余計なものを与えてしまったのか。そうだとしたら俺は。俺は、どうすればいいんだ。俺の中に居る赤女に戻すには、どうしたら良い? その術は、誰が教えてくれる?

「……そんなことは、無い」

そうは言ったものの、これから先が浮かばなくて。こう言って、何になるんだろう。こう言ったところで、赤女の自分を責める感情は変わらない。むしろ、また余計な表情を、作らせてしまうかもしれない。

「いいえ。私は、最低ですよ」

止めろ。止めてくれ。そんな顔しないでくれ。俺が全部悪いから。俺が全部抱え込むから。それで良いじゃんか。どうしてお前が、罪を被ろうとするんだよ。本当に、止めてくれ。お前が傷ついているところなんて、見たくないの。

「私は、」

「風呂入ってこい」

髪も体をぐちゃぐちゃだぞ。
ついでに、心もな。

とりあえず、今は一緒に逃げようよ。


〜つづく〜


二十九話目です。
長い長い。最近キャラが崩壊してきている。