複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.148 )
- 日時: 2012/07/23 16:17
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
- 参照: http://雷暝=らいめい
30・魔女の王女様。
ライアーは、私を咎めなかった。そう。ライアーは私を咎めない。そんなことは予想できていた。そうだ。どうして、なんて聞かなくても分かる。ライアーは私が傷つくことを恐れている。私に、付いてきて欲しい理由があるんだ。それも、私に言えないような、そんな理由が。話して欲しいなんて言えるはずもない。ライアーの心の奥に、触れたくない。色んなことに挑戦することが怖い。
臆病になってしまった。また、誰かが傷ついたら。それを考えるだけで、足が竦む。私はこのままずっと、臆病のままかもしれない。
もうそれで良いかも。ずっと安全なところに居ようか。誰とも関係を持たなければ、もう傷つくこともない。それで良いかも。それが良いかも。私にはそれがお似合いかも。
でも、自分じゃあその環境を作れない。だから、私を閉じ込めて欲しい。そうやって、私を閉じ込めたという責任さえも、他人になすりつけようとする。
ほら。私は最低なんだって。
こうやって、一生逃げて暮らすんだって。
それを望んでいるフリを、するんだって。
私が風呂場から出て頭をふき始めたころ、列車が速度を落とし始めた。
そろそろ、私の悪夢が終わる。
そのあと、また一緒に笑おうね、凪。
+ + + +
「っ、貴様っっ!!」
ノーベルが柄にでもなく取り乱して、椅子から立ち上がる。
ああ、絶望と取ったか。
「気になるんだけど、どうしてクイーン・ノーベルは、そんなにレッドエイジを批判するんだよ」
「あんな時代、この世界にはもう要らないっ! 貴様もそんな間抜けなことを企んでいるなら、容赦はしないぞっ」
目を開いたまま、全く時間をかけずに精神を整えるクイーン・ノーベル。
魔術の知識は、とりあえずはある。初歩的なものくらいなら、ワタシはできる。だから、喋りながら、怒りながら魔術を発動させようとすることがどれだけ大変か、分かる。それゆえに、顎を自分の汗が伝う。
そうか。ワタシは今、怖いんだ。凄い。素晴らしい。流石、クイーン・ノーベル。この世界で、一番の腕を持つ魔女。そう言われるのに、一切の疑問を抱かせないほどの、魔力。
それが今、この空間を支配する。
「雷暝……貴様がまさかレッドエイジの信者だったとはな」
白い眉をひそめて、残念そうにするクイーン・ノーベル。
本当なのかな。本当に、ワタシがそんな人間じゃないと、常識的な思考を持っていると、思っていたのかな。
そうだとしたら、ごめんね。ワタシ、そんなまともじゃないの。だけど、そんなところがワタシの良いところでしょう。
「……だったら、どうっての」
上手く、口角が上がらない。クイーン・ノーベルの魔力が、肌をびりびりと締め付ける。息がしにくい。
クイーン・ノーベルの息はどうか分からない。でも、隣でワタシを心配しているガーディアンの落ち着いた呼吸を聞いていると、無性に情けない気分になる。
ガーディアンの手を払いのけて、平静を装う。
別に、情けなくても良いや。
「ここで、殺しておく」
どうぞ、滑稽だと笑えよ。
〜つづく〜
三十話目です。
長いですね、ごめんなさいw