複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.149 )
- 日時: 2012/07/24 15:28
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
31・お気軽ボードゲーム。
適当に服を着て、ライアーのもとに戻る。ライアーはもうすでにいつもの黒いコートを着ていて、少し待たせてしまったようだった。
私は軽く頭を下げてから、ライアーに駆け寄る。ライアーは私の髪を一度撫でる。
「まだ、髪が濡れてるぞ」
「あ、良いんです、気にしないでください」
列車の速度が落ちてきたから、もうすぐで着くということは理解できた。だから、十分に乾かさないで出て来た。私の中では、私よりも凪が優先順位は高いから。
ライアーはそれ以上口を開かないで、凪が寝ている部屋に向かう。他の部屋よりの重い扉を開けると、冷気が体を撫でた。
列車の中に死体を綺麗にする人を雇ったので、凪はもうすっかり綺麗だ。ギガントの粘液はついていないし、血は洗い落とされた。私も少し手伝ったけれど、途中で吐いてしまって、あとはプロにお任せした。これは、ライアーには内緒。死体を大切に持ち歩いていると勘違いしたのだろう。列車の人たちはみんな、ワタシとライアーを奇異の目で見ていた。
ライアーさんは凪の髪を撫でてから、隣に置いてあった棺に入れた。
この人は、人の髪を触るのが好きだ。何時もしている。自分が不安なときに。きっと、そう。自分を落ち着かせるために、しているんだ。
棺の紐を引っ張るライアーの手に、自分の手を重ねる。ライアーは、じっと前を見つめていた。
+ + + +
城が、凍りついた。
染みひとつない城の壁に、霜が付く。吐きだす息さえも、白い。ただ、依然ガーディアンは平然としている。
「雷暝さマ……?」
ガーディアンの暗い桃色の瞳が、不安げに揺れている。彼の目は、もう桃色とは言えない。濁りすぎて、暗すぎて、何色か分からない。
ワタシはそんな彼に、笑いかけた。
「ああ、大変だ。ガーディアン、ワタシはもうだめかもしれない」
わざとらしく言うと、ガーディアンの顔が見る見るうちに絶望に染まる。本当に、単純なんだから。
涙がたまる瞳に、笑いそうになる。
「だメ、駄目ですヨ、死んじゃだめですッ」
ガーディアンの翼が、はためく。そう。彼の背中には、おとぎ話に出てくる悪魔のような羽が生えている。どんなものでできているのか分からない手触りと、感触。ワタシはガーディアンのそれが気に入ったから、そばに置いている。
彼の翼は、彼の感情に連結しているようで、怒ったり嬉しかったり悲しかったり。そんな感情に合わせて上下する。
これは、怒りだ。
ガーディアンは唇をかみしめて、クイーン・ノーベルを睨む。クイーン・ノーベルは驚いたのか、途中まで紡いでいた詠唱を、止めてしまった。
「アンタのせいカ? そうだよナ、許さなイ!」
少しだけ、城の温度が上がる。ワタシのつりあがった口角を見て、クイーン・ノーベルが目を見開いた。
ガーディアンが、走り出す。
城の白い床が少しへこむくらい強い、衝撃。
私は、こうなることが少し、予想できていた。
だから、駒を連れてきたのだ。
ガーディアンという、捨て駒を。
〜つづく〜
三十一話目です。
雷暝とノーベルは争うはずじゃなかった。