複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.158 )
日時: 2012/08/20 12:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



38・保護者の責任感。


「ライアー、部屋を貸そう。そこを使うと良い」

何度お礼を言っても足りない。何度頭を下げれば良いのだろう。
クイーン・ノーベルと、俺を育ててくれたクオとユコトは、知り合いだから。そうじゃない、それだけじゃ無い。
クイーン・ノーベルは、優しい。俺なんかのために。俺は、クイーン・ノーベルの仲ではどんな位置づけなのだろうか。
クオとユコトのおかげで、こういうことを頼めるんじゃなくて、いつか、俺もいろんな人とつながって、色んな人に頼って頼られて生きて行けるようになろう。俺も、世界に触れよう。凪のように、世界と関わろう。もう、こんなことは二度としないように。
俺も、いつかクイーン・ノーベルに頼られるように、なろう。
俺は頷いて、再び頭を深く下げた。いつの間にか、クイーン・ノーベルは俺の前に立っていて、爪の先まで白い手で、俺の赤い髪を撫でた。
落ち着く。すごい、落ち着く。

「安心してください。必ず、成功させます」

ああ、頼む。お前なら大丈夫。必ず成功させてくれる。お前だから、任せることができる。
顔を上げると、クイーン・ノーベルは赤女を見つめていた。
一瞬、苦しげな表情を作って、すぐに消す。そこが少しだけ、気になった。
なんで、そんな表情を作るんだ。どうして。赤女を見て、やったのか。それとも、赤女の後ろの棺を見てか。後者が良い。俺の頭の中で、ぐるぐるとまわる言葉。
アスラの言葉。赤女の秘密。俺が赤女と一緒に居れば知ることになる、赤女が背負っている物。重い、大きな物。アスラが憎む理由。
これ以上、赤女を見て欲しくなくて、間に入ろうとしたら、クイーン・ノーベルは口を開いた。潤いのある、白い唇。

「……あなたは、ここに残っていただけますか。少しだけ、話があります」

「っ、」

「え、あ、分かりましたっ」

息を呑んだ。
なんだよ、話って。俺が居ちゃいけない話なのかよ。俺が話を聞いていちゃ、まずいのかよ。女同士の話ってことかよ。それとももっと悪いことを話すのかよ。俺に秘密を作るのかよ。
だから、俺は何なんだよ。俺は、いつか知るんじゃなくて、早く知りたい。赤女が背負っている物を。
俺に知る権利は無い。義務も無い。でも、知りたい。どうしてかなんか、知るわけない。ただ、知りたい。赤女が俺に何か隠すなんて、耐えられない。それでも、俺は、赤女が俺に秘密を明かしても、俺は赤女に秘密を明かさない。きっと、赤女は自分が背負っているものを、理解していないだろう。

「じゃあ、ライアーさん。また後で」

「……ん」

呑気に手を振る赤女を見届けて、俺はクイーン・ノーベルが用意してくれた部屋に向かった。


〜つづく〜


三十八話目です。
視点を決めるのが難しい。