複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.159 )
日時: 2012/08/24 14:33
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



39・xとy。


「私は、クイーン・ノーベルと名乗っている者です。貴女のお名前をお聞かせください」

やけに、丁寧な人だ。今、やっと私の存在を認めてくれたような気がする。私と話がしたいだなんて、予想もしていなかったから、すごく驚いた。でも、逆らう感情なんて、ちっともない。凪を助けてくれるなら、私はそれで良いのだ。今、ここで全裸になれって言われたって、抵抗しない。よっぽどのことじゃないと、私はクイーン・ノーベルに逆らわない。

「雪羽です」

すんなりと答えると、クイーン・ノーベルは軽く頷いた。個人情報がどうだこうだ、なんて言わない。私はもうこの人を信用している。心から。
優しい人だ。こんな急な要望に、二つ返事で了承してくれたのだから。忙しいはずなのに。私たちが良からぬことを考えているかもしれないのに。私と違って強いから、もし私たちが変な行動をしても、すぐに対処できるからかもしれないけれど。
クイーン・ノーベルは、椅子に座ろうとしない。私の前だからだろうか。そんなこと、気しなくても良いのに。偉そうに座っていても、私は何も気にしない。

「……どこで生まれたのです?」

「南の方の、村です」

本当は、答えなければいけない。村の名前までしっかりと答えなければいけない。それなのに、私はあえて曖昧にした。
昔、お母さんに言われた。よっぽどの事がない限り、村のことは言ってはいけないよって。うすうすは、分かっていた。どうして、隠さなければいけないのか。どうして、お母さんがそんなことを言ったのか。
あの日のことを思い出して、少しだけ寒気がした。
寒い日だった。私たちの村は、南にあったから、冬でも暖かくて過ごしやすい日がほとんどだったのに。その日はなんでか寒かった。周りの人の目も、冷たかった。
時々優しく笑う彼も、冷たく——————

「なるほど」

考え事をしていた頭が、現実に戻る。俯きかけていた顔を、クイーン・ノーベルの方に向けた。
どうにか、村に関しては深入りしないようだ。ほっとした。ここで深入りされて、もしもクイーン・ノーベルに不快な思いをしたら、凪を生き代えさせてくれないかもしれないし。

「……ライアーとは、どういった関係ですか?」

「え? いや、別に特別な関係では……犬と主人? いや、猫と犬、みたいな。うん? いや、蛇と蛙?」

関係を言葉に例えろ、なんて言われたら、困るだけだ。
ハラダ・ファン・ゴの武器を私が壊してしまったから、その償いとしてライアーのお供をするわけになったわけだけど、それは私が悪いんじゃなくて不良品だったからだ。お姉さんに言われて分かったこと。それでも、ライアーが私を突き放さない理由とは。
私がどもったからか、クイーン・ノーベルは、白い眼と唇を緩ませて、笑う。
笑うと、美人だった。お姉さんの系統の美人。


〜つづく〜


三十九話目です。
長いなぁ。