複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.160 )
- 日時: 2012/08/29 20:29
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
40・困惑の青。
「はぁい、パルちゃん、あーん」
マリンブルーは俺の目の前に、爪がはがれている指を差し出した。
さっきまでの暗い表情はどこかに消えて、再びあの不気味で重い雰囲気がマリンブルーに付きまとう。
口の中に涎が溢れた。食いつきたい所だが、どうにも食欲が湧かない。さっきまで浮かべていた、俺のような表情が、頭から離れない。
コイツ、本当に生きていて楽しいのかな。
俺は、楽しいよ。銀が居てさ。アシュリーが居て。ムーヴィも居て。なんだかんだ言って。アスタリスクから逃げてきた俺たちには、全く道なんて無いけれど。きっと誰にも愛されず死ぬんだろうけど。でも、今は楽しいし。俺、このままで良いと思う。もっと自由になりたいだとか、もっと笑いだとか、いろんな服を着たいだとか、もっと良いところで寝たいだとか。もっともっと、欲はあるけれど。でも、その欲を殺せるほどの幸せが、俺たちにはあるから。俺は幸せじゃ無いなんて言ったら、アシュリーが困ったようにして、銀が泣きそうになって責めて、それでムーヴィが怒ってくれる。そんな環境が、すごく暖かくて。俺、こんな幸せで良いのかな。約束された未来なんて、見える明日なんて無い。でも俺は、今の俺を支えることができているから。
それで良いって、思うから。
前の俺みたいなマリンブルーが、心臓に引っかかる。
「遠慮なんてしないでよ。これから俺たち一緒なんだから」
「ずっとって、言わないのか。お前の性格なら、言うと思ったのに」
こんな生意気な口を叩いたなら、コイツだって怒ると思った。それなのに、コイツは苦しそうに笑うだけ。
驚いた表情を殺したつもりですか。少しだけ、遅れたようだね。分かったよ。驚いたんだろ。俺がこんなこと言うなんて、思わなかったんだろ。俺だって、黙ってないよ。自分から捨てているような奴を、見逃すことなんてできない。アシュリーは、そういうことができない人間だから。
そういう奴と一緒だと、うつるんだよなぁ。
「なぁに言っちゃってんのー?」
「ずっとなんて、言えないって思ってんだろう?」
俺の言葉が、図星だったのかマリンブルーは俺の口に無理矢理指を突っ込んだ。
おいしくない。舌の上で、仕方なく指を転がす。
マリンブルーは立ち上がって、俺を振り返る。
俺を見下ろす目は、マリンブルーの目は、悲しさに揺れているような、そんな気がした。
「……俺が死んだら、それで終わりだから」
口の中に指のせいで、何も言えなかった。
違う。ただ、それを理由にしただけだった。
〜つづく〜
四十話目です。
あれ、初かな。まだちょっと続きますw