複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.161 )
日時: 2012/08/29 21:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



41・この世界の空気。


「ただいま、パル」

「ただいマ!」

マリンブルーが出て行ってすぐに入ってきたのは、雷暝と、出るときに俺を気にかけていた、背中に悪魔の翼が生えたチビだった。
それにしてもコイツは、男なのか女なのか、どっちなんだ。顔もどちらとも取れるし、声もどちらとも取ることができる。無理に確認しようと思えばできる。でも、したくない。そこまで興味は無いから。
雷暝は俺に近づいてしゃがみ、指で口を開く。俺の唾液でべとべとな指を引っ張り出した。

「誰に貰ったんだよ、こんなもの」

俺は答えない。なんでだろう。確実に雷暝の怒りを買うことは分かるのに。怒りまではいかなくとも、多分良い気持ちはしないだろう。俺なんかに無視されて。俺みたいな、ただ親が偉大な魔女だっただけの存在に。
俺は、望んだわけじゃない。ただ、生きることが存在する意味が、それが魔術だと、そう母親が言ったから。ただそれだけだから。俺はそれを間違いだと認められなくて。俺は、母さんは、間違ってないってそう思いたかったのかもしれない。だから、俺のやっていることは無駄じゃ無いって、俺の生きる意味はこれしか無いって、思いたかった。俺は、世界じゃ生きることができないから。俺は世界なんて知りたくないって。俺は俺のことを認めてくれる世界だけで、息をしたくて。俺が初めてであった母さん以外の人は、真っ白な魔女だ。髪の先まで、真っ白な魔女。彼女は、母さんを封印した。レッドエイジ。赤を利用して、世界を壊そうとした愚か者の時代。母さんはそう言った。愚か者、なんて言葉、そんな表情で使うのかって疑問を持つくらいに、嬉しそうに。母さんは、一体何をしようとしていたのだろう。
母さんは毎日、暗い部屋で魔術を起こしていた。その魔術は、遠くの物を見ることができる魔術。俺はまだ使えない。その魔術を毎日していたなんて、やっぱり母さんはただ者じゃない。
そうして、母さんは毎日、楽しそうに村を見ていた。何の変哲もない、南の方の温暖な村。なんで、どうして、あんな村、見ていたのだろう。俺の中で残る疑問の1つ。

「へーぇ、答えないんだ」

「ソウガ君でしョ? ソウガくン、男の人に優しいシ」

雷暝が俺の体に手を伸ばそうとした時、隣の餓鬼がきょとんと丸い目をもっと丸くして首を傾げた。そうして、白い歯を見せながら笑う。
俺は銀を思い出して目を逸らした。何だか味方だと思ってしまいそうだったから。

「……まぁ、良いや。どうでも良いけど、ガーディアン」

声に反応して、餓鬼が雷暝を向く。その瞬間に、ガーディアンの体が部屋の隅まで吹っ飛ばされた。目で追うことすら、できなかった。ガーディアンの呻き声でやっと、何が起きたのかを理解した。
コイツ、コイツ。
マリンブルーの顔を思い出す。気が付けば、奥歯を噛み締めている自分がいた。

「お前には聞いてねぇーよ」


〜つづく〜


四十一話目です。
ガーディアン可哀想。