複雑・ファジー小説

Re: 赤が世(略)【100話超えてた】 ( No.162 )
日時: 2012/08/31 19:12
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



42・口先の麻酔。


「申し訳ありませン……」

ガーディアンはすぐに体を起こして頭を下げる。その後から自分の頬に気を配る。どうやら殴られたようだ。
俺は何だか申し訳なくなった。俺が無視したから、ガーディアンが殴られたんだ。
ガーディアンはそっと口から何かを吐き出す。白っぽい色だったので、歯かもしれない。
雷暝はそんなガーディアンに冷たい視線を向けた後、ガーディアンに近寄っていく。
自由が効かない体をできるだけ捩って、雷暝に向かって叫ぶ。

「っおいっ! 止めろ!」

「あーぁ、ワタシの可愛いガーディアン。ごめんな。ワタシはお前を愛しているよ。だからこそなんだ。ガーディアンもワタシに愛されたいだろう?」

そんなことを言いながら、ガーディアンを無理矢理立たせて抱きしめる。
止めろ止めろ。それは違う。それは愛情じゃない。ガーディアンは銀に似ている。きっと純粋で無垢で世界をまだ全部知らないんだ。それなのに、雷暝のせいで。ガーディアンにはまだ可能性があるのに。世界を美しく生きる道があるのに。俺はガーディアンの何かを知っているわけではない。それでも、ガーディアンを見ていると、どうしても銀を思い出す。ガーディアンの行動が、銀に見える。声が、銀と被る。そうなると、放っては置けないのだ。心配でしょうがない。
これがもし、銀だったら。雷暝にこんな間違った世界を教えられているのが、銀だったら。
そんなの嫌だ。そんなこと、考えたくもない。
雷暝の言葉に、頷くガーディアン。雷暝に背中を押されて部屋を出ることを促されると、何も考えていないような顔で部屋から出て行った。

「さてと、邪魔者も居なくなったし、ワタシと2人で楽しい話をしようか」

「っ、邪魔者なんて言うなよっ!」

アイツは、ガーディアンはきっと雷暝が好きなんだ。それか、雷暝に逆らうことができないのか。それでもアイツは雷暝しか居場所が無いんだろう。
それなのにコイツは、そんなアイツの心を弄んでいるんだ。
最低な奴。
言葉にできないような怒りが、心を支配していく。
俺は下唇を噛んだ。さっきまで口に含んでいた指の血液と自分の血液が混ざって、変な味がする。
そんなことも気にならない。

「あぁ、アレか。ガーディアンっていうんだ。可愛いだろ? ワタシの言うことには嫌な顔を見せない。ワタシの命令には全て従う。可愛いよ。あれほど思い通りになる人間は居ない」

人間と言われて、少しだけ安心している自分が居た。

あそこに居た頃、俺たちはずっとアスタリスクの所有物であって、人間ではなかったから。


〜つづく〜


四十二話目です。
まだ終わりは見えない。五十話には届かないと思っています。