複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.163 )
- 日時: 2012/09/01 18:07
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
43・他人事で済まさないで!
「吸血鬼だよ、春海」
アスタリスクは言った。
アスタリスクは落ち込んでいるようだけれど、残念ながら本気に見えない。冗談じゃないのかと思うほどだ。長年一緒に居たから私はは冗談じゃないと分かる。
やって来て最初に出されたコーヒーはもうとっくに覚めてしまっている。
アスタリスクはコーヒーを入れるのが下手だ。アシュリーが居た時までは、アスタリスクの身の回りの世話は彼女がやっていた。アスタリスクはアシュリーをいたく気に入っていた。気に入っていたからこそ、壊したくてたまらなかったんだと思う。自分の世話をさせておけば、いつかは壊れる。アスタリスクはそう踏んだわけだ。そうして、アスタリスクはアシュリーが完全に自分に抗えないと思った。それが、失敗。
アシュリーにはまだ意志があった。あの子は強い子だったんだ。自分を見失わずに、自分のしたいことはちゃんと自分で理解していたんだ。アスタリスクはそれを知らなかった。
つまりは、アスタリスクは負けたわけだ。あんな少女に。
「はぁ? 何を言っているんだ」
私はコーヒーに映る自分の顔を見ながら呟く。
アスタリスクと話すのは苦じゃない。だからこそこんなに意味の分からないことを時々喋るだけのお茶会も、参加してあげる。
アスタリスクはアイツ等が居なくなって相当暇しているようだから。
「だから、アイツ等だよ。世間に出ても困るだけなのに。ここにずっと、ずっと居ればよかったのに。余計な感情も覚えずに済んだのに。無知という夢に浸っていることができたのに」
アスタリスクは私の疑問を解決しないまま喋り続ける。
私はもう突っ込むのも面倒になったので、一口コーヒーを啜った。
おいしくない。床にその一口を吐き出すと、アスタリスクが不満そうに声を上げた。気にしない。こんなまずい物を客に出す方が悪い。
私は客だ。アスタリスクの友人じゃない。ここに居るのは苦じゃ無いが、来たいと思ってきている訳ではない。
アスタリスクの考えている事はよく分からない。ここでどんな事をしているのかもよく把握していないが、それをどうして、何のためにやっているのかも、私にさえ明かさない。今流行っているレッドエイジと何か関係があるのかと思ったが、それは違うだろう。アスタリスクがそんなものに興味があるとは思えない。
「アイツ等は、普通じゃない。このアスタリスクが作ったのだから。その普通じゃないものが、世間に出てしまった。これは問題なのだよ、春海。困った。アイツらは人を殺すだろ、生きるために」
そうしたら、自分が責任を取らなくては、そう悩むアスタリスクに、私は小さく笑みを零した。
〜つづく〜
四十三話目です。
必要じゃない話を書いているような気がしてならない。