複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.164 )
- 日時: 2012/09/02 18:11
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
44・欲の時代。
クイーン・ノーベルはその質問をした後、しばらく黙っていた。
黙って、私を只じっと見つめているだけだった。
私はちょっと緊張していたから呼吸の音が大きかったけれど、クイーン・ノーベルからは全く音がしない。それも不気味で、私も何も言わないでクイーン・ノーベルの言葉を待った。
クイーン・ノーベルが一度目を閉じて、私を再び見た時。その時、もう今までのクイーン・ノーベルは居なかった。真剣な顔になって、何か別の感情が混じった白い瞳を、私に向けた。空気が張り詰めて、息苦しい。私は呼吸を大きくした。酸素が足りない。そう思ったからだ。
クイーン・ノーベルは、私の頬に手を添えた。想像していた手とは全く違い、しっかりと体温のある人間の手。私はそれに少し安心した。
この人、人間なんだ。あまりに白くて、異次元に居るかのような印象だったから、体温がなくて冷たい体を想像していた。それは私のただの妄想に過ぎなかったのだ。
クイーン・ノーベルの細い白い手首で、白いブレスレットが揺れる。
「……赤き時代」
クイーン・ノーベルから洩れたその言葉は、私が最近よく耳にするものだった。思わず首を傾げそうになったが、止める。
クイーン・ノーベルは言葉を噛み締めるかのように、言う。言葉を続ける。
その行為に、怯えているかのように、ゆっくりと、柔らかく。
「……知っていますか。知っているなら、どれくらい、知っていますか」
私は、私の顔を映す白い瞳を見ながら首を振る。
「何も」
そうですか、クイーン・ノーベルは残念そうに、だけどどこかほっとしたように私の頬から手を離す。人の皮膚の感触が残っている自分の頬が、気になった。
私は正直に答えた。凪に依然聞かされたことがあったけど、それだけ。たったそれだけなんだ。私がレッドエイジについて知っていることは。
ただ、すごい時代だったってこと。それを知らなことは、珍しいということ。たった、これだけ。
「そうですか。私に、ウソは、つかないで、下さい。お願いです。絶対に、ウソだけは」
縋るような声で、そう言われると、私はただ頷くしかなかった。
そもそも、私がクイーン・ノーベルにウソをついてもメリットがない。ただ嘘吐きと思われるだけ。それはデメリットだから。
私が頷いて、クイーン・ノーベルは私を褒めるかのように髪を撫でてくれた。
白い指に、私の黒が絡み付く。何だか異様な光景だった。
クイーン・ノーベルは私の髪から手を放すと、掌を私に向けた。その掌に、白い光が集まる。驚きつつも、その美しい光を見続けた。
「これを、貴女に。約束してください。これをずっとつけていて。絶対に、手放さないで」
クイーン・ノーベルが掌で作り上げたものは、彼女と同じ真っ白なネックレスだった。赤じゃないことは不満だけど、私は彼女に逆らうことはできない。
私はまた頷いた。
クイーン・ノーベルは私の首にそれをつけてくれた。
じっくり見ると、きらきらと光を放っていて美しい。もっとよく見ると、光っているのはネックレスの紐に描かれている文字だった。何語だろう。共通語ではないようで、残念ながら私には読めない。
「彼のことは、私に任せて。絶対に、生き返らせて見せます」
「よろしくお願いしますっ」
私は右手で敬礼をして、深々と頭を下げた。
凪の笑顔を思い出して、ツンと鼻が痛くなったので、とりあえず鼻を摘まんでおいた。
〜エンド〜
色々解決していませんが、とりあえず四章はこれで終わり。やっと終わりです。
さぁ、第五章。
久しぶりに、あの人たちが出てきますよ。