複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【四章完結】 ( No.165 )
日時: 2012/09/05 18:02
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



1・ゴミみたいなおれ。


この世界には、ビーストっていうモンが居てよ。そんなことは、この世界に生まれた奴なら、言葉よりも先に知るってくらい重要なことなんだ。人を平気で襲ってくるようなそんな化け物のことを知らないで、一体どうやって生きていくんだ。
まぁ、そんなことは置いておいて、次の話題に行こうか。
ビーストのことは引き続き考えるとすると、ビーストの繁殖方法のことだ。生きているのだから当然で、生まれて死ぬ。それなのにビーストがいつまで経っても減らないのは、増えるからであって。ただ、それが問題なんだ。
卵で生まれて来る者もいれば、そのまま生まれて来る奴もいたりする。そりゃあ、いろんなビーストが居るんだ。
小さいドワーフ。でっかいギガント。まだ発見されていないビーストだって居るんだ。その繁殖方法だって、色々あるだろう。大まかに挙げるとすれば、その、卵とそのまんま。
で、それにつなげるのは、そう。そのまんまで生まれてくる奴がいるってことは、一物を持っているビーストだっているわけだ。そして、その一物がさかっている時だってある。
だから、理性の無い知性の無いルールの無いビーストは勝手にメスの穴にぶち込んで、来たねぇモンを吐き出す。
でも、自然って言うのは、厳しいもので、弱い奴はメスの穴にぶち込む前に、メスに殺されちまう。
だけどやっぱりそこは人間の男と同じで、ぶち込みたい訳だよ。
そこで、目を付けたのは、自分より弱いメス。人間の、女。
弱いビーストは人間に手頃な穴があると知ると、容赦なく汚い一物をその穴にぶち込んだ。そして、無理矢理ツキまくった挙句に、汚いもんで満たして、孕ませた。
そうすると、人間の女はショックで何も言えないで。
しょうがねぇと、諦めるか。死ぬか。その選択を迫られるわけ。人生を分ける、最大の決断。

おれが知っている女は、諦めなかった。
村からは追い出され、家族とは縁を切られ。婚約者には化け物扱い。
それでもその女はこの子に罪は無いと言い続けた。

そして、都会の隅。ゴミみたいな世界の隅で。一人淋しく、出産した。

バカだよな。そんなことしたって、何の解決にもならないのに。殺せば良かったのに。
本当に、バカだ。

そして、そんなその女の人生の枷となった子供。
ビーストの汚い血が混ざった赤ん坊。

そうして生まれたのがこのおれ、ツバメである。


 + + + +


「……お前がしたのか」

振り返った。後ろに人が来ているのは知っていたから。黙って、あんまり反応を示さないようにした。
頭の中は大パニックだ。見られていた。そんなの知らないのに、悪いことをしているような気分になった。
おれは自分の頭のフードを両手で掴んで、引っ張ろうとした。でも、その手は空を掻いた。
そうだ、おれ、服着てなかった。

「……そうかもしれない。でもおれ分からない。おれは怖かった。おれ、なんか急にコイツ等に連れてかれそうになったから」

びっくりしたんだ。いつものようにゴミ箱を漁っていたら、2人下品に笑う男がやってきて、良いじゃないかとか、食っちまおうとか言っておれの服を脱がせたから、びっくりして恐くて、思わず。
そんなことでって思うかもしれないけど。

「殺したのか」

「死んでない」

首を振って、それは否定をする。命を奪うのはよくないって、お母さんに言われてたから。
近くに落ちていた布きれを拾って、頭に被せる。そうしていると安心するからだ。
どうしようか、これから。服は。

「なんだかお前、ゴミみたいだな」

頭がはじけた。
最悪だ。そんなこと言わないでくれよ。そんなの自覚してんだ。おれはゴミ。ゴミみたいな人生を送って、ゴミみたいに終わる。そんなの生まれて、お母さんが死んだ時から分かってんだ。おれも、これからこうなるんだろうなぁって、思ってんだ。それなのに。
他人から言われると、むかつく。
すごい、むかつくっ!

気が付けば、走っていた。そいつに向かって走っていた。足は止まらない。
おれ、何やってんだろ。
こんな見るからに強そうなやつに立ち向かって。こんな人に、勝てるわけない。
おれより全然背が高くて、筋肉がいっぱいでおれより確実に長く生きていて。

距離を詰めて、飛ぼうとした。首に一発、蹴りを入れてやろうと思った。

「若いのは良いねぇ」

そんな呑気な声が聞こえたと思ったら、おれの体は、右に薙ぎ払われていて。狭い路地だったので、体が壁に激突した。
体の骨が悲鳴を上げて、耳の奥が揺れて脳みそが溢れるかと思った。瞬間、口の中が切れて、慣れている血の味がした。唾液が分泌されて、口の横から垂れる。生ぬるい液体が頬を伝って、意識が淀んでいく。

おれ、死ぬのかな。

おれに伸びる筋肉のついた腕に、おれは目を閉じた。


〜つづく〜


一話目です。
彼は温めてきたキャラです。連載前から出ることは決まってました。
五章から、またお願いします!!!