複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【四章完結】 ( No.166 )
- 日時: 2012/09/08 12:04
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
2・誘拐みたいな誘導。
穏やかになんか、眠っていられなかった。目を閉じているだけなのに、瞼の裏が熱くて、眼球が溶けそうなくらいで。そんな感覚から早く逃げ出したくて、おれは目を開いた。
そこは、初めて見るもの。板だ。木の板。
おれは見慣れないそれにびっくりして体を起こす。
すると、おれは綺麗な服を着て毛布をかけてソファに寝そべっていた。フワフワしたその感触は初めて感じるものだったから、違和感を感じて毛布を床に落とす。
「常識がないな」
地面を揺らすかのような低くて重い声に、床を見つめていた視線を向かいの椅子に向ける。そこには、あの筋肉の男が偉そうに腰を下ろしていた。
驚いて飛び退くとすぐ後ろに壁があったのか、頭がぶつかる。
ここは、どこだ。コイツに殴られて壁で頭をかち割ったあたりから全く記憶がない。
どうやらあまり広くない部屋のようで、ガタガタと揺れている。
「……何をする気だ」
「服脱ぐんだよっ。暑いし、なんか窮屈だしっ」
今まで、冬の日だってこんなぴっちりして肌を全部覆い隠すような服を着た事がなかったから、変な感じがする。
おれは胸のあたりに手を置いて脱ぎ方が分からないから、引きちぎろうとした。その様子を、男はじっと見ている。
指に力を入れても、なかなかちぎれない。固い。生地が厚いのか。お金がたくさん必要そうな服だ。なんかひらひらキラキラしているし。
「止めろ」
体が震えた。肩を揺らして、手を止めた。違う。手は動いている。違う。これは動かしてるんじゃない。震えているんだ。怖い。声ひとつで、すごく怖い。心臓が何かに掴まれたのかと思うくらい。喉元に刃物が押し付けられたのかと思うくらい。そのくらい。喉がヒューヒューと変な音を出している。
おれは大人しく、震えている手を重ねて足の間に挟んだ。ソファの上に膝を立てて座り、じっと男を見据える。
男は上半身裸で、筋肉を見せびらかしている。
「もうすぐ着くぞ」
「……どこに」
ごくりと唾を飲み込んで、おれは窓の外を見た。
景色が動いている。なんだこれ。あ、おれたちが動いてんだ。すげぇ。
今すぐ窓に張り付きたい気分だったけど、怒られそうだったから止めた。
おれの脚にぴったりの靴をすり合わせていないと、なんとなく暇だ。
男はおれを見たり、外を見たりしている。視線が落ち着かない。
おれは一回外を見ただけで、それ以外は男を見ている。そこだけは勝った気分だった。
「さぁ。さてと、出るぞ」
男はそういったかと思うと、立ち上がる。それと同時に、おれたちのいる部屋の振動が止まり、外の景色も止まった。
おれの腕を掴んで、立ち上がらせる男。おれは素直にそれに従って、男の後に引っ張られるようについていった。
部屋から出ると、目の前には大きなドームのようなものが構えていた。その周りは草原で、何も無い。なんでこんなところに、こんな物が。
おれはおれたちが乗ってきた部屋、いや小屋を振り返って、それを引っ張っていたのがビーストだと知った。
そして無意識に、下唇を男に気が付かれないように、噛み締めていた。
〜つづく〜
二話目です。