複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【四章完結】 ( No.168 )
日時: 2012/09/14 18:53
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



4・言い訳のような愚痴。


ホワイトドッグ。
成長するとギガントになる、ビーストだ。
白い体と、黒目の無い灰色の目。足に生えた緑色の鱗。
おれはそれを知っている。
ビーストだ。ビーストとの、ハーフ。
その言葉に、背骨が冷えた気がした。
ぞくりと、びくりと。体を震わせそうになって、耐える。立ち上がって、逃げようとした。でも、動かない。体がうまい具合に動いてくれない。
動いてくれよ。ここが怖い。
布きれみたいな服を来て、鎖をつけて、ぼさぼさの白い髪に、緑の鱗が歪に並んだ右手。右足を覆い尽くす白い毛。
それを隠したいのか、腕を動かすたびにじゃらりと鎖が冷たく音を立てた。
ゴミ。一言だった。
ここに居る人間たちは、その女の子を見て拍手を送ったり好奇の目を向けたり、隣の人とこそこそと話したりしている。
ゴミ。ゴミじゃんか。おれみたいだ。おれのような、ゴミ。
おれの体から力が抜けていく。
逆らう気持ちも、逃げ出したい気持ちも、全部萎えた。
何だか、目をつぶしたい。目をつぶして、鼓膜を破って、何もかもを遮断したい。そんな気分だ。
おれはその女の子に焦点を当てないようにしながら、ステージを見つめ続ける。目を逸らしてはいけない気がした。目を逸らしたら、おれが嫌がって居るようだ。隣の男に、おれが慌てて焦っていることを知られて、不振がられたら。
おれはもう、ゴミにはなりたくない。アイツみたいに、なりたくない。おれは見世物になんかなりたくない。

『それでは50万から!!』

安。安すぎる。生きてんだぞ。たとえ、きったないビーストとのハーフでも、理性がないビーストの遺伝子が入っていたとしても。生きてるじゃんか。なんでそんなことが言えるんだ。どうしてこんな真似、できるんだ。おれは嫌だよ。こんなの認めたくないよ。おれの中に流れる血の半分が、こうして命をもてあそぶ人間の血だなんて、そっちの方が恥ずかしいよ。もう半分の血がビーストってことよりも、恥ずかしくてたまらないよ。
おれは次々と挙げられる数字から耳を塞ぎたかった。値段がなかなか上がらない。
おれと同じくらいの年。餓鬼だからかよ。餓鬼なら、そんな安い値段で売られるのかよ。

ふと、おれの方を女の子が見たような気がした。
気のせいだ。きっと、気のせい。おれの方を見るはずがない。縋るような、期待するような、絶望の目。そんな目を向けられたって、どうしていいかなんて分からない。おれはバカだから。餓鬼だから。半分ビーストだから。ゴミだから。おれには関係ないよ。お前が捕まったんだろ。捕まらないで、じっとごみの生活に耐え抜いてきたおれだから、お前みたいなってないんだ。おれは、勝ち組だ。

そんなことを考えて逃げる脳みそに、吐き気がした。


〜つづく〜


四話目です。
コドクビワ、キミイゾン。が終わりました。
ちょっと落ち着きます。