複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【四章完結】 ( No.169 )
日時: 2012/09/17 20:06
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
参照: https://



5・親子のような2人。


胸糞が悪くて、おれはずっと黙っていた。
早く終わってくれ。
体中の寒気が止まらなくて、いつの間にかぎゅっと握りしめていた拳は汗でぐちゃぐちゃだった。
男がおれの頭を叩いて、ようやくオークションが終わったことを知った。
拳から力が抜けて、乾いた口を濡らそうと舌を動かす。
男が歩き出したので慌てて後を追う。
別に後を追う必要はないけど、おれは男についていくこと以外何もすることがないから、仕方がない。男もおれが付いてこなければ困ることはさほどないだろうが、気分は良くないだろう。そうなるとおれは奴にどんなことをされるか分からない。おれは一度この男に殺されかけているのだから。

男はドームを出ると、背の小さな男か女か分からない顔をした人に近付いて行った。
その人の後ろには男には敵わないけど、結構背の高い男の人が立っていた。目つきが悪くて、色素の薄い黒髪をしている。
男は目つきの悪い男が睨んでいることなんか気にも留めないで、おれより少しだけ背の高い男女の前に立つ。

「やぁ、アームス。元気にやってる?」

男女は軽い声を出して、白くて細い手を挙げて見せた。子供っぽい笑みを浮かべながら、おれをちらりと見たが、それだけ。
何だか嫌だった。おれだけ世界が違うような。当然なんだけど。だって、おれは前までゴミだったから。今だってゴミかゴミじゃないかって言われたらゴミなわけだし。男についてきて、男がくれた服を着ているだけで、中身と過去と血は変わっていない。

「クオ、ユコト。お前らはずっと一緒なのか」

男が低い声を出しながら言う。
コイツの名前はアームスというらしい。変な名前だ。

「んー、ユコトが勝手に僕についてくるだけだよ」

「クオ一人だと心配だからな」

男女がクオ。目つきの悪いのがユコトというらしい。
ユコトは一切おれを見ない。声を出したかったけど、止めておく。騒いだら子供っぽいから。

ユコトは渋い顔をしながら、風にひっくり返されたクオの髪を整える。保護者のようだった。それがまるで当然とでもいうかのように、クオはお礼も言わない。
アームスは自分で聞いたのに、その応えには反応せずに、おれの腕を掴んだ。
びっくりした。一気に3人の世界に割り込んでしまった。クオとユコトの視線に中てられて、なんだか緊張する。
今思うと、こんなにまっすぐに見つめられたのは久しぶりだった。視線を下げようとしても、できない。
ゴミだと思われたくないからだ。
柔らかい空気をまとうクオと、引き締まった空気をまとうユコト。正反対な2人は、だからこそ、相性が良いのだろう。

「コイツは、ビーストとのハーフだ。いくらで売れる?」


〜つづく〜


五話目です。
最近ファンタジーの気分じゃないので、書くのが億劫です。