複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【四章完結】 ( No.170 )
- 日時: 2012/09/18 15:14
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
- 参照: https://
6・動物のよう餓鬼。
ざわり、と胸の奥が揺らいだ。掴まれた腕を、切り離したい。逃げたい。
すっかり油断していたんだ。おれはすっかり、人間になったと思っていた。
それなのに、分かっていたんだ。アームスはおれがゴミの中のゴミだって、汚い血が混ざっているって知っていたんだ。そのことをおれに悟られないようにしていたんだ。
おれは全く分からなかった。コイツがそんなこと思っているなんて全然わからなかった。
まさか、コイツがそんな考えを持っているなんて。もっと疑えばよかった。
驚いて、アームスを見上げても、縋るようにクオとユコトを見ても、誰も味方してくれない。誰もおれを人だなんて思っちゃいない。
おれは、ゴミじゃくなった。そのはずだった。おれはもう、ゴミじゃない、はずなんだ。
おれはまたゴミになるのかよ。そんなの嫌だ。
「ふーん、そうは見えないね」
クオはそんなことをぼやきながら、おれの髪を撫でる。
触るな。怖い。もう、コイツ等が怖い。誰も信じたくない。
おれは、おれは。
「触るなっ、おれにっ触るなぁっ!」
アームスの手を振り払い、クオの手も振り落す。
逃げるわけじゃない。おれは向かっていった。
クオをとりあえず蹴り倒す。そうしてクオに意識を向かわせて、離れよう。
おれには行く場所も逃げる場所もないけれど、どこでも一緒だ。少なくとも、ここよりは良い。絶対そうだ。おれもうゴミで良いから。
でも、さっき見た女の子みたいにはなりたくない。同じ人間に安い値段で買われて自由を奪われるなんて絶対にごめんだ。
靴が重いけど、頑張って踏み込んで飛ぶ。
おれは脚力には自信がある。汚い血のおかげで体が軽いんだ。
体を宙に浮かせた状態で右足を引き、クオの首に叩き込む。はずだった。それなのに、おれとクオの間にはいつの間にかユコトが入り込んで居て、おれの脚はユコトの左腕にあたった。
予想外のことが起こって驚いて、バランスを崩す。地面にうまく着地できなかったけど、急いで倒れた体を起こした。おれの蹴りを受けてよろけたユコトも、おれを警戒するように睨み付けた。
「何の真似だ、餓鬼」
ユコトの声が、響く。怖い。引きそうになる。それでも耐える。鋭い光を灯す瞳は、おれを見下ろしたまま動かない。
おれも精いっぱい下から睨み付ける。
ユコトは自分の左腕を気にかけているようだから、少しはダメージを加えることが出来たのだろう。
ユコトに守って貰ったクオは、後ろで涼しい顔をしている。
それがすごくむかつく。お前はなんでそんなに偉そうなんだ。何もしていないのに。首を折るつもりだった。クオの細い首を折るつもりだったのに。すごいのはユコトだ。きっといつも周りを警戒しているのだろう。だからこそ、瞬時に反応できたんだ。
素直に、すごいと思うし、カッコいい。
「誰だってこうする! おれは物なんかじゃない! 金では買えない! 好き勝手に話を進めんじゃねぇ! このっ、ゴミ租チン共!!」
〜つづく〜
六話目です。
まぁ、下品ですこと。