複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.171 )
日時: 2012/09/19 20:41
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
参照: https://



7・母のような少年。


まずい、つい勢いで喋ってしまった。
後悔した時にはもう遅く、クオは後ろで楽しそうに声を殺して笑い始めて、そしてユコトの表情はどんどん曇っていく。
その様子を見て、脳みそが冷めた。上っていた血が下りていく。別に、今まで軟らかい表情をしていた訳ではない。機嫌が良さそうだった訳でもない。それなのに、コイツが不機嫌になった。今のおれの言葉、一つで。本当は怒らせたってことだけで嬉しいはずなのに、今は後悔の方が強い。
おれ、人を怒らせるのとか初めてだ。やばい、どうしたらいいんだ。

「餓鬼、俺のことは別にいい」

良いのかよ。そう思った。正直言って拍子抜けだ。でも、続く言葉を待つ。後ろのアームスも警戒しながら。
おれの集中力を舐めるな。いつ誰がおれを襲ってくるか分からなかった。飯、と言ってもゴミだけどそれを漁るときも集中してきた。おれの毎日に安息なんてなかった。それが普通だった。お母さんが生きている間も、油断した事なんかない。お母さんは頼もしかったし、強かったけど、でもおれは男だから。お母さんを守ってやりたかった。でも、守れなかった。それが悔しい。
おれを守ってくれたお母さん。おれを生んでくれたお母さん。恨んでなんかない。
おれはゴミだけど、でもそれ以前に生きているから。だから、辛くなんかない。

「だが、クオは女だ。ふざけるなよ」

「ユコト、うるさいよ」

真剣な面持ちでどんなことを言うのかと思ったら、そんなことかよ。おれはクオが女だろうが男だろうがどっちでも良い。どっちでも美人なのには変わり無い。少し子供っぽい顔なのは残念だけど、でも、女か。それなら許せる。少年って言われても違和感のない顔だけど、言われてみると行動や言動が女っぽい。

初めて不機嫌そうにしたクオを振り返って、ユコトが小さな声で謝った。それにクオは片手を挙げて答えて、おれとユコトの間に割って入る。
ユコトを前にするときよりも空気が軽い。それに安心して、おれは半歩下げていつでも飛び出せるようにしていた右足を前に出して、両足を揃えた。

「なかなか面白いことを言うね、いや、下品なことだけど」

自分で言っておいてなんだけど、ちょっと言い過ぎた。それを追及されて、なんだか恥ずかしい。
クオは思い出したようにひとしきり笑ってから、おれの肩に手を置いた。

「君、アームスの弟子になりなよ」

「はぁ?」

予想外のクオの提案に、おれの口から間抜けな声が出た。振り返ると、アームスも不思議そうな顔をしている。
クオは、目を細めた。
その顔がすごく怖くて、ユコトも背筋を伸ばす。おれも拳を握ってしまった。
なんだ、コイツ。お母さんに怒られているような気分だった。

「ねぇ、良いでしょ?」


〜つづく〜


七話目です。