複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.174 )
日時: 2012/09/26 21:26
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



10・慣れのような習慣。


ライアーはきっと疲れている。私より数倍疲れている。
いろんなことが、思いが、この短い期間に詰め込まれて居る気がする。一気に加速した私の毎日に、私も眩暈がしていたけれど。それはライアーだって同じだ。私のような厄介な者を連れて、大変だろうな。
私はそれでもライアーについて行く。この意味は私でもよく分かっていないけれど、でも分からないなら考えれば良いし。考えながら、ライアーについていけば良いことだ。ゆっくり、頭の細胞が死なないように気をつけながら考えていこう。それが私には合っているから。

口では何とでも言えるし、大丈夫だっていうことなんか簡単だ。ライアーの事だからどうせ、私に迷惑や余計な心配をかけないようにしているんだろう。それはもう理解しているから、それ以上は追及しないで、納得したふりをする。
そして、行動で心配しよう。それを悟られないように。

「なぁ、悪いが、凪が起きるのは待っていられない」

申し訳なさそうに、ライアーがこっちをちらっと見て、そして視線を再び下げる。忙しそうに両手の指を絡めて、私の返答を待っているようだ。
私を傷つけないように必死なのかな。そんなに気にしなくても良い。

「……はぁ」

「大丈夫だ。クイーン・ノーベルの腕は本物だし、きっと、成功する、いや、絶対」

恐る恐る言葉を選びながら私に確認するライアー。
分かっている。私だってクイーン・ノーベルの腕を信じていない訳じゃない。成功するって信じて疑っていない。

凪が笑って謝って来るのが目に浮かぶ。
そんで、私が良いですよ、なんて心にもないことを言って。本当は私が謝らなきゃいけないのにって後悔して。そんなことは言えなくて。そして、こんなに心配させやがって、ちょっとひっぱたいてやったりして。

少しずつ、視界が滲んでいく。
なんで、泣いているんだろう。そうだ、凪のことなんか思い出しているからだ。凪のことを考えるだけで、心がきゅってなるから。
凪のせいだから。凪のせいなんだからな。絶対、許してなんかやらない。でも、帰ってきたら、まず一番に笑ってやるから。だから、凪も笑って帰ってきて欲しい。私を安心させて欲しい。

視線を下げているライアーに気が付かれないように、何気ない動作でジャージの袖で目の辺りを拭う。

「俺の、都合なんだ。本当に、悪い」

ライアーは本当に、申し訳なさそうだ。
別に、凪の目覚めを待っていたいわけじゃない。後で、無事が確認できればそれで良い。

「大丈夫ですよ。私はライアーさんについて行きますから」


〜つづく〜


十話目です。
わーい、二けた来たー。