複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.177 )
日時: 2012/09/30 19:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



13・悪のような正義。


名前で呼ばれた。名前で私を呼ぶんだ、みんな。

「犬か。私のどこが犬に見える、言ってみろ」

私は堂々と構えながら、私の挑発にまんまと乗った頭の悪い男は、私に向って唾液を飛ばしながら、拳を振り上げる。

あーなんかもう、何にも聞こえないや、バカの言葉なんて全く理解できないやー。良いですよ、無理して理解しようとしないで。貴方たちにとっても、私の言葉は高貴すぎて理解できないでしょ。だから、無理しないで良いの、本当に。

私は急いでしゃがみ込んで、男の汚らしい脚に向かって足払いをかます。バランスを崩した男の体に飛びついて、押し倒すようにしながら、地面に頭を押し付けた。
口からまた、大量の唾液が分泌される様は、私よりよっぽど汚らしくて、犬らしい。
こんな連中に、私の正義を罵倒する資格は無い。私は別に怒っている訳じゃない。こんな奴らに、理解されたって嬉しくないから。
私は急いで左へと体を転がした。すると、予想通りもう一人の男が私にナイフを向けながら突進していたようで、倒れていた男に足をひっかけてバランスを崩しかけた。
バカみたい。
私はもう何度もやったように、剣を抜き、男の足の腱を後ろから切って、素早く鞘に戻した。
よし、終わり。
私は念のため、足の腱を切られて崩れ去る男を、足で蹴り上げた。
呻き声が聞こえた。

「言えないのに、人をバカにするものじゃないな。覚えておくと良い」

私は聞こえていないだろうけどそんなことを言って、女の子の腕を掴んでいる男を睨みつけた。

「ひっ。お、俺は何にもしてないんだよ、俺は悪くないんだよ」

私が一歩進めば、男は女の子の腕を離して、瞳を潤ませた。
私に怯えているようだけれど、こんなことをした程度怯えるようじゃまだまだだな。そんなんで、人を不幸にするなんて、愚の骨頂だ。
私は懐中時計を取り出して、時間を確認する。そろそろ、戻らないと。
私は男に向かって、目を細めた。私は笑ったつもりだったのだが、男は情けなく足を震わせたままだ。

「そうか。お前がそう思うなら、悪くない。私はそれと同じように、私が正しいと思うなら、正しい」

私がもう一度足を踏み出せば、男はがくがくの足を必死に動かして、路地の奥へと掛けていった。
安心したのか、女の子はその場に崩れ去りそうになる。私はそっと、その体を支えた。
女の子は薄い生地の服を着ていて、私より若いようだった。こんな格好でこの街を徘徊するなんて、コッチもバカか。ここがどんな街か、知っているだろうに。
いや、ここだけじゃない。もう世界中の発展している町はみんな、腐った人間の巣になっているだろう。
私はそれをどうにかしなくてはいけないと思っている。それは、正義を感じた人間の、使命なのだ。気が付いたものから、動かないといけない。

「あ、ありがとう。助かったわ。でも、貴女、私がもし、あの男たちの恋人だったら、どうしていたの? 話も聞かないで、酷いと思うわ」

私が居なければ酷いことになっていただろうに、こんな強気なのはすごいと思う。
私はそんな女の子に微笑みかけてあげた。

「そんなことはありえない。私の正義は私の中では正義でしかないのだから」


〜つづく〜


十三話目です。
違う人ですよ、違う人。