複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.178 )
日時: 2012/10/01 10:31
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



14・強がりのような甘え。


名前を呼ばれることがほとんどだった。私の名前は一つしかなかった。

「おかえり、レドモン」

騎士団本部に帰ってくると、今私が所属している部隊の隊長が声を掛けて来た。
隊長は優しくて、顔も凡人よりも良いし、清潔感もある。頼りがいもあるし、心強いし、剣の腕も良い。
私はそんな隊長に憧れていた。私もいつか、隊長のように強くなって、隊長の肩書を手に入れたい。そうすれば、もっと自由に街を取り締まることが出来るし。そうして、私の思いに賛同してくれる人を集めて、それでこの町を平和にして、世界を安心して生きることができる空間にしたい。それが私の夢であり、最終的な目標だ。
そのための第一歩として、まず隊長だ。そのためには強くならなきゃ。

「ただいま帰りました。お疲れ様です、隊長」

私は隊長に向かって深く頭を下げる。しっかりと誠意を持っているからだ。じゃないとこんなことは無しない。
そういえばこの間、若い団員を連れて酒屋に入っていったという噂を耳にしたけれど、正直どうでも良い。隊長だって人間なのだから、若い女の子に興味を持つことは当然だろうな。
でも、なんかちょっと、興味がないとかどうでも良いとか当然とか。全部私の強がりだ。私よりも二つ年上なだけ。でも、私には女としても魅力がないから、体調もただの団員としてしか見ていないだろう。
私の顔が、もっと綺麗だったら。もっと可愛らしい仕草ができたら。もう少し、年が若かったら。そんなことを考えていても仕方ないなんて、分かっている。でも、私はそんなことって一言で全部全部忘れることができるほど、強くもない。私は強くならなきゃいけない。
それは私の使命だ。
少しくらいなら、女の子らしくなっても良いかな。とか。最近そんなことを思うようになってしまって。ダメだななんて、分かってるってば、しっかりしないと。

私は綺麗に掃除された床から顔を上げて、隊長の方を見る。女としては背の高い私でも、見上げなくてはいけないほど隊長は、私にさえ微笑みかけてくれる。
こんな、魅力がなくて、剣ばっかりやっているだけの女にも。

「また街を回って来たのか? 熱心なのは分かるけど、ほどほどにしろよ、レドモンは女なんだから」

「っ、」

ほら、そうやって。私にはなるべく優しくしないで欲しいと思う。
でも、優しくしてほしい。隊長が私に興味がないなんて分かりきって居ることだけれど、それでも、見てくれたり心配してくれたりすると結構嬉しいものだ。
だって、私はこんなんでも女なのだから。

私は鼻を鳴らしながら隊長から顔をそむける。そうして、キビキビと足を動かしながら奥に進んでいく。

「お構いなく」



〜つづく〜


十四話目です。
この章は長くなりそうです。