複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.180 )
日時: 2012/10/07 10:55
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



16・強さのような弱さ。


名前で私を呼ぶ。私の名前は私を呼ぶ。

思わず、足が止まる。予想外の言葉で、それ以外の言葉を想像していて。そもそもこんなひねくれた私にこれ以上言葉をかける人なんかいないって思っていたから。
私は足を動かそうとした。動かない。なんでこんなに動かないわけ。なんでこんなに。コイツの言葉だけで。私は正義だけあれば良い。私しかこの世界は変えられない。レッドエイジなんかに頼って世界を他人に変えて貰おうなんて甘い考えを持っている奴とは違う。
私はもっと違うことをしなければならない。もっと違うこと。こんな事に現を抜かしている暇は無くて。私はまだ弱い。こんなことでは駄目だ。こうして今私が足を止めているのも、私の弱さから来る物で。
動けよ。それか耳を塞いでしまえ。私には必要のないこと。私の人生は正義の塊で良いじゃないか。
それだけのために身を捧げなくては。誰かが動かなければ。

「先輩が何に頑張って何を目指しているかなんか分かりませんけど。強がってるだけの女性なんかに、誰も興味なんて持ちませんよ」

後輩の言葉から逃げないと。じゃないと飲まれてしまいそうだった。早く逃げろ。私はこのままで良い。
私は剣を握って生きていこう。それが私の生きる意味で。生きがいで。それで良いはずなの。
怖いんだよ。私は人を好きになることが。誰かを好きになるってことはいつかは嫌われてしまうってこと。そんなのは嫌だ。それが怖いんだよ。私は怖いんだ。人に嫌われるのが。人に自分の嫌なところを見つけられるのが。それが嫌だから。だからずっと剣に逃げてきた。いまさら、振り返れというのか。この恐怖と向き合えというのか。ずっと逃げてきたこの恐怖を知れと言うのか。そんなのは怖いよ。怖くて溜まらないんだよ。
自分のただ一人の弟にさえ、自分のことを知られるのが恐かったというのに。なんでさ。なんで私があんたみたいな後輩に自分の弱いところを見せなきゃいけないのさ。
気が付けば、体が震えていた。何だよ、これ。
後輩の足音が近づいて来て、私の目の前に立って肩を掴む。
後輩の方を向くのが怖い。どんな顔をしているだろう。私を笑っているだろうか。
そんな顔を見たくないよ。見せないでくれよ。

「ねぇ、先輩。頑張りましょうよ。先輩は変わるべきなんですよ」

変わるべきなのか。私が変わるべき。どう変われば良いんだ。もっと自分の味方を増やせって、そういう事か。そんなのは駄目だ。裏切られるのが恐い。別に前に裏切られたからとかそういう理由じゃないけど。そうじゃ無いけど。でも、怖いんだよ。
私は恐る恐る後輩の顔を見る。今までの後輩では考えられないような真剣な顔。それだった。そんな顔を後輩は私に向けていた。
それに何故か心臓が震えた。

「私、変われるかな」

声も震えてしまった。
私は、こんなに弱かったかな。


〜つづく〜


十六話目です。
書きにくいよ。