複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.184 )
- 日時: 2012/10/13 11:40
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
18・苦みのような苦しみ。
「はあ?」
初めて会った時から、嘘くさい奴だと思っていた。思ってはいた。思って居たはずなのに。どこか、何かを拒むような、拒否をするような、何かを隠すような、そんな顔で、コイツは笑うのだ。別に、私は人の顔から感情や過去を読み取れるわけじゃ無い。ただ、初めて会って顔を見た時から、胡散臭い顔だとは思って居た。
私の言葉に、その顔を崩した後輩。突然で、あまりにその顔が後輩に似合わないものだから、体が硬直してしまった。
後輩は私よりも剣の腕が立つ。だからなのか、後輩は私のその隙に入り込んできた。一瞬で。背中に固いベッドの感触。今までずっとこのベッドで寝てきたから分かる。
私の手首をつかんで、ベッドに押し付けながら私の見下ろす後輩の顔が、やけに怖い。人の顔がこんなに恐いと思ってのは初めてで、人の殺気をこんなに間近で感じたのも初めてで。
汗が出てくるのを感じる。ドプリと。毛穴から。全身から。やばい。なんだこれ。
なんなんだ、これ。
「レドモンさんは、バカみたいに俺についてくれば良かったのに。ダメだなー。そういうところもやっぱり駄目だ」
何がどうなっているのか、全く理解が出来ない。どうして、こんなことになっているんだ。瞬きの間隔が狭い。後輩の目から目を逸らすことが出来ない。後輩が笑う。見たことも無い笑顔で。私を笑う。歯並びの良い口を歪ませて、彼は笑う。なんで。協力してくれるんじゃなかったの。それで、貴方から誘ったんじゃ無かったの。それを私はただ、断っただけじゃ無い。ただ、正気を取り戻しただけじゃ無い。ねぇ、何も悪くないじゃない。どうしてこんなことに。
後輩は私の手首を片手に集める。もう片方の手でポケットを漁って、注射器を取り出した。それを、私の首筋に、刺す。
なんだこれ。ねぇ、なんだよこれ。私、なんでこんな目に合わなくちゃいけないのさ。私は、正義のために生きていくから。だから許してくれよ。もう何も望まないから。もう何もいらないから。ただ目標に向かって進んでいくから。バカみたいに。
「大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから」
「……ぅあ」
もうすでに悪いようにされてるんじゃ無いのかな。大丈夫なのか。でも、大丈夫なのか。私は大丈夫なのか。なんで、なんで大丈夫なんだっけ。私は、私は大丈夫なのはなんでだっけ。私は、大丈夫。そうなのかー大丈夫なのか。頭が熱いよ。なんだよこれ。口から息を吐き出すのが苦しいよ。止まんないよ。これ、どうすれば良いの。私こういうことするの初めてなんだよ。
だからさ、優しくしてね。
「隊長ー」
「れ……」
舌がびりびりする。なんなんだろう、これ。隊長って隊長だよなぁ。ダメダメ。私今薄い服だし。後輩にこんなことされてるし。ダメダメ、見ないで。なんで隊長も来るの。なんで隊長も私を笑うの。止めて止めて。
えええええあああ、ん、なんだっけか。どうして私は。何を。
「よーぉ、レドモン。レドモンちゃんが俺のことを好きなんて知ってるっての。レドモンちゃん、バカだね。ってことで、おめでとう、レドモンちゃんが俺の67人目の獲物ー」
若い団員を連れて、酒屋に入って言ったって。よく女の人と喋っているって。
ああ、でたらめじゃなかったのか。この人は、本当に。私はまんまと、引っかかったわけだ。
私は、油断をしたから。油断なんかしちゃいけないって、思っていたのに。私は、いつも。
でも、もう良いや。なんか、もう良いや。頭が重いんだよ。それで、考えるのが面倒くさいんだよ。それで、体がどうしようもなく熱いんだよ。
二人は私の名前を呼ぶ。
呼びながら、私を。
ねぇ、お願いよ、お願い。
もう私の名前を呼ばないで。
もうそれは私じゃないの。
私は、レドモンなんかじゃないの。
〜つづく〜
十八話目です。
次から戻りますよ、ようやく。